槍持ち佐五平の首
佐藤 雅美 / / 実業之日本社
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収録作品は短編8話からなる。
第1話「小南市郎兵衛の不覚」、第2話「槍持ち佐五平の首」、第3話「ヨフトホヘル」、第4話「重怨思の祐定」、第5話「身からでた錆」、第6話「見栄は一日 恥は百日」、第7話「色でしくじりゃ井上様よ」、第8話「何故一言諌メクレザルヤ」である。どの話も史実に基づいた作品らしい。
第1話「小南市郎兵衛の不覚」
羽太求馬という七百石の旗本には、
ふさという娘がいた。彼女は器量は悪くはなかったが、31歳になってもまだ嫁にいかず家にいた。いい男を見るとつい色目を使うといった具合で身持ちが悪かった。羽太求馬はあまりにも恥さらしな行為を続ける彼女を勘当しようとしたが、渡辺権之進という用人がとりなし、求馬の長男半蔵の槍術の師匠・小南市郎兵衛に預けることにした。しかし市郎兵衛は、ふさと出来てしまう。後見人になったはずの市郎兵衛が
ふさと出来てしまうという不始末をしでかし、権之進は怒るが・…
第2話「槍持ち佐五平の首」
ある日の暮れ方、陸奥相馬家の宿割役人の絹川弥三右衛門は、参勤交替で国許に帰る殿に、1日早く先行して太田原の本陣の宿に入り泊まった。先触れ状でかなり前もってから予約しての行動であった。その日の夜遅く、会津藩の宿割役人がやってきて、明日会津殿が泊まるから相馬藩に宿替えをしろと迫る。先触れはしていなかったが、明日は永代御掛ヶ日であるから先触れしていなかったことなど関係ないという。会津藩と将軍との繋がりをちらつかせての無理強いだった。そんな騒動に、口入屋から雇われたに過ぎない槍持ち役の佐五平が巻き込まれる。・…
第3話「ヨフトホヘル」
私は逢坂剛の『重蔵始末』シリーズをよく読む。先日も
最新刊を紹介した。あの作品は近藤重蔵を主人公にしたものだが、この作品も重蔵に関するものだ。あの作品でも重蔵は、一癖も二癖もあり自己顕示欲の強い人間であることがわかるが、それだけでなく相当人品卑しい人物だったようだ。この作品では、あこぎなそんな性格が祟って、結局は自分も滅ぼしてしまうことになった事件を取り上げた話である。
第4話「重怨思の祐定」
幕府役人の間のいじめ話である。将軍家慶の御小納戸役を勤める旗本・松平頼母は、将軍に頼み、倅の外記を御番士に入れることに成功する。同僚は、彼が少禄なのに御番士入りしただけでも面白くない。何かと彼を苛(いじ)めていた。彼が武芸百般ということから将軍のお声がかりで、追鳥狩の拍子木役を仰せつかるに及ぶと、先を越された先輩らが猛反発し圧力をかけて辞退をするように迫る。・・…
第5話「身から出た錆」
これは堺町奉行・大坂西町奉行、勘定奉行、江戸南町奉行などを歴任した矢部定謙(さだのり)の話。彼に関しては私は最近、中村彰彦氏の
『天保暴れ奉行』や
『北軍の軍師たち』などを読んだ。このブログでも紹介している。佐藤氏はこの作品のタイトルを見てお分かりのように、中村氏とは異なり、少し厳しい見方をしている。比較しながら読むと結構面白かった。
第6話「見栄は一日恥は百日」
陸奥弘前津軽藩の隠居の殿・右京大夫は、万事に派手好みで見栄を張った。ある年、将軍家斉が太政大臣に昇進し、それに伴い御大礼が行われることとなった。その式典のため登城するに際して官位従四位下侍従以上の者は轅(ながえ)の籠に乗れるしきたりだ。右京大夫の身分なら乗れるが、登城するのは倅で現藩主の信順(のぶゆき)で四品の為に轅の籠に乗れない。右京大夫は倅が何とか轅の籠に乗れるよう家臣に工作を命ずるが・…
第7話「色でしくじりゃ井上様よ」
奏者番の井上河内守正甫(まさとも)は、ある日、同僚の内藤大和守頼以に下屋敷遊びに来ないかと誘われる。現在の新宿区に広大な屋敷地を持っていた内藤家である。遊びにいった時、井上が他の者とはぐれてしまった。敷地内に何軒かあった農家に入り休ませてもらった。しかしその家の女房の野趣に溢れた健康そうな体を見て、ついムラムラして行為に及んでしまう。…
第8話「何故一言諌メクレザルヤ」
幕末の天保の改革を行った水野忠邦の水野家で8代目の水野忠辰(ただとき)の話。幼い時から深く聖学を学び、英邁の気質があった。それで本人も青雲の志を抱き、藩主となると、聖学に基づいた政治、民や臣下のための政治を目指そうと、率先垂範の善政を始めるが、家老や年寄りなどの門閥などの重役は苦々しい思いでその政治を見ていた。……
最初に書いたように、どれも実際にあった話のようだ。現代とは大きく異なる武家社会の倫理をリアルに描いた短編集だが、見ようによっては、現代も昔もよく似た面がある。揉め事が起こるときの構造、管理社会の論理、役人の陰湿さ、人々の物事へのこだわり方など、日本的な特徴が多分に出ているように思う。色々な意味で本当に面白い作品であった。
お薦めの一冊です。
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