バルタザール・グラシアン(1601~1658)は、17世紀スペインの著述家でイエズス会の修道士だそうだ。
前書きにもあるが、聖職者の人生訓ではあるが、生真面目さ、禁欲さ、理想論的内容とはかなり趣が異なり、マキャベリの『君主論』や、中国古代の『孫子』などにも通じる本に思える。
大航海時代の後期の激動激しい時期に、いかに現実を冷静に見極め、思慮分別と洞察力をもって、柔軟に対処していくべきかを述べた、時には生々しいまでの狡知な対応指針のようにさえ感じる、極めて現実的な処世訓といえる。
解説によれば、ニーチェやショーペンハウエル、ラ・ロシュフーコー、森鴎外などにも影響を与え、未だに読み継がれる本らしい。
この本の影響を受けたと言われるニーチェの言葉を集めた『ニーチェの言葉』などと比べても、かなり、生々しい処世訓的色合いが濃い気がした。
英訳の原題は“The Manual of Prudence”
Prudenceは「用心深さ、慎重さ、思慮分別、賢明さ、細心、打算...」の意味だから、賢明であるための手引書とでもいう意味だ。見た通りマニュアル(手引書)という語が入っている。
私は実は、中身をあまりよく見ず古本屋でこの本を買ったのだが、マルクス・アウレリウス・アントニヌスの『自省録』(何度も色々な人の訳書で読み直している本です)などのようなものを思い浮かべていたが、大いに期待を裏切られた。
でもがっかりする予想外さではなかった。座右に幾つか置いている本の1つに加えようと思う。
オススメの一冊です。
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