この本を読む1つ前に、ノーベル物理学賞を受賞した小林誠氏の『消えた物質』を読んだ。
あちらの本では受賞理由の「CP対称性の破れ」と、それによる物質優位が書かれ、今回読んだ本と同様、「対称性」がメインのキーワードとなっていた。
ただあちらでは、その「対称性の破れ」が現在の宇宙とどう繋がっているか、主に素粒子物理学の説明を中心に説明した後、宇宙の物質優位の原因を考察するという事に重点が置かれていたように思う。
こちらの本は、勿論対称性の破れは認め説明するが、どちらかといえば、今でも「対称性」は現代物理学のキーワードであり、この宇宙を支配する4つの力(4つの相互作用)を、統一していく過程の中で、「対称性の破れ」がどのように生じていったかを理解し、現代物理学をより深く理解しようとしているように思えた。
現実の宇宙の中でいかに「対称性の破れ」が色々見られようとも、元々の宇宙(宇宙開闢の原始宇宙の頃)は、宇宙はゲージ対称性が支配する世界であったに違いないと科学者は信じた。
つまり彼らは次のように考えた。140億年前のビッグバン直後は熱い火の玉宇宙で、素粒子が直接飛び交うという高いエネルギー状態。宇宙は対称性の条件から見れば「理想の世界」であったはず。が時間の経過とともに、幾度かの相転移により宇宙の温度が低下。宇宙の進化の過程で‘自発的に’破れが生じて、ゲージ対称性が破れていったのだと。
紹介の途中だが、少し私の感想も交えると、第1章「身のまわりの対称性」、第2章「対称性が破れる」辺りは、鏡の不思議など関連話だが余談的話が多く、なかなか本題に進まず、少し苛(いら)ついた。
第3章あたりから素粒子物理学の歴史を述べながらかなり突っ込んだ知識まで踏み込み、次第に面白くなっていったという感じ。
さて物理学の歴史で、20世紀の初期の頃は、対称性の破れが散見できても‘くり込み理論’などを用いれば、対称性を何とか維持できたが、素粒子物理学の研究が進むにつれて、簡単には対称性を繕えない現象が生じる。
例えば普通のゲージ粒子(力を伝える粒子:光子(電磁力を伝える)やグルーオン(強い力を伝える粒子)などがある)がほとんど質量ゼロであるのに対して、弱い力を伝える粒子・ウィークボソンは、力の作用範囲は強い力同様に非常に小さいが、質量が陽子の約90倍であるなど、とても普通の見地からは対称性があるといえない状況を呈する。
そういう「対称性の破れ」など物理学理論の綻(ほころ)びを、何とか克服しようと現在にいたるまで、基礎理論を統一してきた歴史を述べられる。
重力の方では、ニュートンの天体及び地上の重力の統一、アインシュタインの一般相対性理論が登場。電気と磁気ではマクスウェルが電磁理論を確立、その後、電磁理論と弱い力を統一した朝永振一郎・シュウィンガーの量子電気力学理論、ワインバーグとサラムの統一理論、大統一理論が登場。
まだ仮説段階だが、超対称性大統一理論などが唱えられ、そういう流れの中で相対性理論と大統一理論を統一の試みである「超ひも理論」という現在最も注目を集めている理論の登場など紹介される。
また現代物理学が指摘するところでは、宇宙の73%がダークエネルギーという未知のエネルギー(または質量)で占められるが、残りの27%のうち、23%がダークマター(暗黒物質)という未知の物質で占められる。光る天体が占める質量は、4%に過ぎず、現代物理学で大きな謎となっている。
そのダークマターの正体が、超対称性理論から推論された超対称性粒子である可能性があると言った話も出てくる。
ダークマターの謎の解明のためにも、超ひも理論などが一般相対性理論と量子力学を統一し、新しい展望をもたらす事が期待されていると述べる。
この紹介文を書いていて、専門用語がなかなか省けず多用となり、もどかしい。私の能力では、短い紹介文ではとても説明しきれない。内容をある程度詳しく述べようと思うと、こうならざるを得なかった。あしからず。
2冊よく似た分野の本を読んだため、かなりよく理解出来たと思う。数式は色々出てくるが、大体は高校物理学に出てきた数式か高校物理・数学で理解できる程度のものだ。『消えた物質』に出てきた波動方程式のような難しい数式は出てこない。
私は図などの2箇所表記の明らかな誤ちを見つけたが、いい加減に読めば見つからなかっただろう。こういう本は、相当専門家でない限り、速読はやめ精読すべきである。
精読しても、この遅読の私が1日で読めたのだから、皆さんも高校程度の物理学の知識があればきっと同程度の時間で読めるはずです。
私は、1990年頃から分子生物学など生物学の知識をもつことが現代人に必要となりつつあると感じてきたが、東北関東大震災の後は、物理学及び化学についても同様になりつつあるように思うようになった。
特に今後の日本を支えていく若い世代には、どんどんこういう本にチャレンジして欲しいと思う。
お薦めの一冊です。
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