佐藤雅美氏の人気時代小説・居眠り紋蔵シリーズの第11弾。
今回は「真冬の海に舞う品川の食売女(めしうりおんな)」「象牙の撥(ばち)と鬼の連れ」「みわと渡し守」「磔(はりつけ)になる孕んだ女」「取り逃がした大きな獲物」「中秋の名月、不忍池池畔の謎」「孰(たれ)か微生高(びせいこう)を直(ちょく)なりと謂(い)うや」「ちよの負けん気、実の父親」の8話が収録。
と言っても、それぞれの話は一応異なる事件を扱っているが、佐藤氏の小説の場合、その巻に収められたそれぞれの話が完結しているものは殆どない。この本も同様、収録8話は互いに関連し繋がっている。よって8話を独立した事件譚のように略術するのは難しいのでやめておく。
といっても全体のキーとなるような話だけは簡単に紹介しておく。
今回は、紋蔵の娘・妙(たえ)や養子・文吉などが通っている手習塾市川堂に、同じく通っている‘ちよ’と、‘みわ’が、ストーリーの展開に大きく関わる。
みわは、幼くして両親を亡くし子守奉公に出され、似絵師友蔵に拾われ貧乏な境遇にあるが、三味線の腕前は玄人はだし。
三味線の師匠・富本豊勝の弟子たちのお浚い(公開演奏会のようなもの)で聴衆にその腕前を披露し驚かせた‘みわ’は、‘ちよ’の育ての親である金右衛門が所有する谷山(やつやま)の人気の料理茶屋・観潮亭に出て得意の三味線を弾くようになる。するとたちまち評判を呼び彼女は看板娘となる。
自分は美人だと思い、何事にも負けん気の強い‘ちよ’は、自分こそ観潮亭の看板娘に相応しいと思い、‘みわ’に対抗心を燃やす。ただし三味線では彼女に勝てないので、踊りで勝とうと思い、市村座の女形・沢村雪之丞や、その雪之丞が目の敵にしている沢村雲之丞に踊りを習う。
短期間ながら、双方から踊りを必死に学んだ‘ちよ’が、観潮亭に出て踊りを始めると、こちらも評判を呼び大盛況。八丁堀小町と呼ばれる器量良しも手伝って‘みわ’以上の評判を呼ぶ。
‘みわ’の方では別に競っているつもりはないが、‘ちよ’は得意満面。
がそれも短期間だった。今度は、両親を亡くしていたと思っていた‘みわ’が実は九州は肥前唐戸6万3千石・呼子志麻守が秘かに妾に産ませた娘であった事がわかり、他に子が無い志麻守が、家来に命じて拐(かどわか)すかのよう引取るという事件が起こる。
紋蔵が、志麻守と直接交渉し、最終的には養親・友蔵らの了解を得て、志麻守の姫となることになったが、おかげで‘みわ’が住む長屋の住人手習塾市川堂でまた大評判となる。
‘ちよ’は、それがまた面白くない。そのうち彼女は次のように夢想するようになった。自分は金右衛門に育てられてきたが、どうも彼は実の父でなく、養親のようだ。
器量が自分より劣るあの‘みわ’が、西国大名の姫だったならば、自分は公坊様(将軍様)の姫である可能性は大いにありうるかもしれない、と。
‘ちよ’は、文吉(紋蔵の養子で、‘みわ’のボーイフレンド)に、自分の出生が公坊様の姫であるかどうか調べてと頼む・・・・。
まあこんな話が今巻全体を通して展開していく。
その他にも、この今回は女の境遇がキーの話が他にも幾つか出てくる。
例えば巻頭の話は、八丁堀の稲荷社の社家に養女に出された娘が、数年後社家から品川の旅籠屋土蔵相模に飯盛奉公に出されていた件をめぐっての訴訟の話だし、第5話の「取り逃がした大きな獲物」は、川越の大店の隠居婆さんが呆けて、自分が誰だかどこから来たかも忘れて騒動を起こすという話。
彼女らをとり巻く人間が、欲徳から涙や笑いを誘うドラマを展開していく。
今回もストーリーテラーともいうべき佐藤雅美氏が、非常に面白く全体を構想し、秀逸の巻となっています。
お薦めの一冊です。
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