このシリーズ第6作目である。ここ一月半ほどで、第2弾から最新刊の第6弾までの五冊を読んだ。
登場人物の紹介などは特にしない。このシリーズの第1弾から第3弾で、ある程度紹介しているので、知りたい人はそちらの記事を読んでほしい。
今回は、主人公源三郎が住む深川堀川町‘おけら長屋’の表店の蕎麦屋「信濃屋」に、長らく手伝いに来ていた千春姐さんが、独立して店を出すことになった。
といっても私の記憶の中に、千春姐さんという名は全然ない。今回作者が新たに、この蕎麦屋に昔から通いで勤めて女中として加えたのではないか。
兎に角、その千春姐さんが、本所竪川に架かる一ツ目橋の近く、橋と向き合う格好の相生町の角地に新しい湯屋‘一之湯’が出来、その二階の大広間を借用して蕎麦屋を開業したのだ。
冒頭は、おけら長屋の面々が開業に招かれてその一之湯を訪れるところから始まる。そこへ、この銭湯の土地も含めて土地を貸している大地主の道楽息子が招かれ登場。
彼は、ならず者の取り巻きを引き連れて訪れ、この店の方針と決めた湯女や酌婦、ダメなら芸者を呼べなどと無理難題を言い、お香り姐さんのとりなしで、一旦は騒ぎを収めた。
その後、湯を浸かり終えた「吉瑞の潮五郎」と呼ばれる地主の大旦那も遅れて二階に姿を現す。
関亭万馬が、酒を飲むとつい出てしまう講釈癖で、場所柄もわきまえず、浅野内匠頭や赤穂浪士を貶(けな)し吉良上野介を称える話を始める。
赤穂浪士贔屓の土地柄だけに、さきほどのならず者らが怒りだし、一触即発の険悪な状況となる。
が運良くそこへ南町奉行所・定町廻り同心・黒米徹之進が現われ事態は収束。
その際、始終我関せずと悠々と酒を飲んでいた潮五郎は、それから数日後、その一ツ目橋のたもとに水死体となって浮いているのが発見された。
それも発見者は千春姐さん。被害者は、ヒ首(あいくち)らしき鋭い刃物で心臓を一突きされて即死のようだった。
難しいかに思えた事件だが、犯人らしき男(丙次(へいじ))は呆気ない程すぐ捕まった。
潮五郎に借金をした男が、借金の取り立てにあった後母親が自殺したため、潮五郎を憎んでいた。彼は隣人にも殺意を仄めかし、事件当日ヒ首を持ちだし出かけるところを隣人に目撃されていた。さらには住まいからも凶器も見つかったことで、黒米徹之進がほぼ間違いなかろうと言うのだ。
しかし源三郎と女目明し・おみつは、その余りにも明白にみえる犯行の経緯があやしいと疑い、逆に丙次は犯人ではないと確信、おみつらと共に再捜査をすると同時に、兄の南町奉行・筒見政則に再吟味の願いに出かけるが・・・・
この第6弾では、他に関亭万馬(以前の越後魚沼藩の郷士時代の名・関谷綾之助)のかつての嫁であった沙耶が江戸に現われる。魚沼藩加納相模守義仁の三女である雪佳付きの女中としてである。
大名の令嬢・雪佳が大身の旗本の家に嫁ぐにあたり、その事前打合せの為とその嫁ぎ先にそのまま召抱えられるという設定。
また今回の話ではあまり活躍しないが、源三郎が勤める日本橋南部の湯屋組合に新たな用心棒として、剣術の達人・若月半次郎と元目明しの‘くろがねの勝二’が、湯屋守り仲間として登場。これにより、源三郎は湯屋組合に縛られる事が少なくなり、今まで以上に動きやすくなるという寸法だ。
あまり活躍はしないと述べたが、二人は話の展開の中ではそれぞれ一度、役に立つ働きをする。半次郎の方は、源三郎が悪党との最後の戦いの場に同行し助け、勝二の方は犯人決定の重要な証人として登場する。
おそらく二人の本格的な登場は、この次の第7弾辺りからではなかろうか。
今回は今までの中では、あまり込み入った話にはなっていないが、娯楽時代劇としては十分楽しめる内容だと思う。
お薦めの一冊です。
【『湯屋守り源三郎捕物控』シリーズの以前読んだ本の紹介記事】
◆『湯屋守り源三郎捕物控』
◆『深川おけら長屋(湯屋守り源三郎捕物控)』
◆『千住はぐれ宿(湯屋守り源三郎捕物控)』
◆『谷中おかめ茶屋(湯屋守り源三郎捕物控)』
◆『麻布むじな屋敷(湯屋守り源三郎捕物控)』
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