サブタイトルは、「河井継続之助が学んだ藩政改革の師」。講談社から最初出版された時のタイトルは「誠は天の道なり」で副題は「幕末の名補佐役・山田方谷の生涯」。
山田方谷については、最近『入門山田方谷 -至誠の人-』(山田方谷に学ぶ会・明徳出版社)という本を読んだ。「本がすき!」という書いた書評に応じて献本してくれる読書ガイドのサイトでもらった本だ。
その時私はこの人物の偉さに非常に感銘した。山田方谷について書いた本を見つけたら読んでみたいと考えていた。
何に感銘したか、業績そのものより、人格や信念のようなものである。
彼は儒学の古典『中庸』の中の一節「誠者天之道也 誠之者人之道也(誠は天の道なり、誠ならんとするは人の道なり)・・・・」を信条としていたようだが、学問などに精進し自分を磨きあげるならやはり私も究極の目標はその辺りかと思う。
この『中庸』の文章を方谷が若き頃にした鋭い解釈を述べよう。
誠とは、天の定めた目標であり、それを到達しようとすることが人の道である。
天の道と人の道とは、それだけに別々のものではなく、一方は目標であり、一方は手段となる。従って両者は一致する。
『中庸』では性命の源について「天命之謂性(天の命ずる、これを性(せい)という)」とも述べる。「性」とは、生まれつき、あるいは性(さが)の意味だ。「命」というのは、天が人に与えることや、また与えたもののことであり、人間の道徳性のことをいう。
よって「性命」というのは、人間が生まれつき天から授かっているところの道徳性のこと。ただそれを天が人に与えたから命といい、人間はそれを天から預っているから性というに過ぎない。
「性命の源に達する」とは、人間がその道徳の根源を自覚することであり、自覚が生ずれば、人間に備わっている道徳性というものはもとから天から授かったものだから、きわめて尊いものだという自覚が持てるはず。
人はその自覚に目覚めるならば、天の誠と人の誠を一貫して自覚し自分のものとすることができる。それがさらに天人合一の道理することの自覚にも繋がると言う。
青少年の頃に、こんな深い解釈に到達できるとは凄い!
この他にも、彼の人生訓として「義を立て、利を明らかにして、理財の道を歩む。」「財の外に立って、財の内に屈しない。」など色々出てくるが、皆いい言葉ばかりである。
もっと若い9歳時のエピソードには、彼の神童ぶりに感心したある大人から将来の夢を聞かれ「治国平天下」といったというのもある。当時周囲の人は彼のことを神童と呼んだそうだが、確かに恐るべき神童である。
山田方谷の生い立ちや生涯なども少し述べる。彼は備中の農民出身者であったが、先祖は源氏の流れを汲む豪農で彼の数代前に没落。両親は彼に小さい時から字を教えたりして勉強させ家名再興を願う。儒学者の丸川松隠に学び、彼はその才能から丸川夫妻からも愛されたようだ。
途中、両親を亡くし、家業の油屋を継ぐことを余儀なくされる。それも見事にこなし、民衆の実際の生活というものからも多くを学ぶことになる。そして世はこの神童を放っておくことはなくかった。
備中高松藩主の板倉勝職が神童の誉れ高い彼を召出したのだ。農民出身ながら勝職に気に入られ京都などに留学に行く事なども許され、帰国後出世していく。藩主勝職からは、桑名藩から養子に入った継嗣・板倉勝静の指導も頼まれ、帝王学を勝静に叩き込んでいくことになる。
板倉勝職が隠居して、板倉勝静が藩主になると、方谷は勝静の右腕(家老など)となり活躍する。乱発で価値を失った藩札を全部回収して焼却し新たに発行しなおしたり、殖産興業で財政再建に成功。
勝静が寺社奉行、寺社奉行兼奏者番、さらには老中など幕府の重職を担うようになると、今度は勝静に助言を与えたり、彼を幕閣の仕事に専念させて藩政は彼が代わりにみるなど大活躍する訳だ。その生き方には私心がなく、あくまで良臣に徹した生き方である。何とも見事な生き方である。
幕府瓦壊を見通していながら、板倉家の譜代大名としての立場を忘れず最後まで板倉家は徳川家のために尽くす生き方を選びそれを主君に薦める。私利を捨てた至誠であろう。またそれを受け入れた板倉勝静も方谷の薫陶の成果かもしれないが、立派な君臣である。
板倉勝静は、反抗のため日光東照宮に籠るが敗れ一時期拘束されるが、味方が救出。会津、五稜郭と転戦したが、結局敗北し、後日上野東照宮の宮司となったようだ。確か会津の松平容保は日光東照宮の宮司となったはずだ。地位や立場が似ているから同様の処置がとられたのだろう。
最後にこの本の副題は最初に書いたように「河井継続之助が学んだ藩政改革の師」となっているが特に述べない。
また私が好きな横井小楠とのライバル関係や思想の違いなども詳しく紹介されているが、私は立場の違いであり、どちらも非難するつもりはない。立派な二人の思想家だと思う。横井小楠についてもこれ以上述べない。あしからず。
お薦めの一冊です。
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