私は、宇宙論が大好きなのでよく読む。子供の頃、屋根の上に寝転んでよく星空を1時間も2時間も飽かず眺めたものだ。宇宙論者・宇宙物理学者になろうとした訳ではないが、子供の頃に不思議な気持ちや想像で見つめた宇宙に、いまだにその神秘を少しでも多く知りたいと尽きない興味・夢を抱き続けている。
この本は見開きA4サイズで、大きく過ぎもなく小さ過ぎもなく、文字も大きく、持っていても軽くて読むのに疲れない。また難し過ぎもなく易し過ぎるということもない。今までに読んだ宇宙論の中では、一番読み易かったような気がする。
あとがき(「おわりに」)を読むと、この本は1章から4章までは口述筆記によってまとめられたもので、一度その形で出版された(1991年、同文書院)後、2001年PHP文庫から再度出版するにあたり、最新成果を盛り込んで加筆修正されたもの。さらに2008年愛蔵版として、この大きさになったようだ。
佐藤勝彦氏自身が、インフレーション理論と呼ばれる宇宙論の提唱者(ただし名称は、佐藤氏と同様の論文を佐藤氏に遅れる事半年後に発表したアラン・グース氏の命名による)として、知られるので、インフレーション理論の説明が多いのは確かだ。
しかし基本的な科学史的事項も、きちんと押さえて書いてある。
人物でいうとニュートン、アインシュタイン、量子力学者たち、ビッグバン宇宙論の提唱者ジョージ・ガモフ、ドジッター、フリードマン、ルメートル、ハッブル、ビレンケン、ホーキングなどと言った科学者たち。
関連知識では、マイケルソンとモーリーの実験、ペンジャスとウイルソンの宇宙背景放射の発見、クォークなどの素粒子、ワインバーグ・サラム理論、相転移、マイスナー効果、トンネル効果、4つの力と統一理論、物質と反物質、ゆらぎ、超ひも理論、宇宙の泡構造、見えない物質など。
上にあげたように11次元世界を説く超ひも理論なども、少し紹介されているのだが、佐藤氏はインフレーション理論の提唱者だけに、少し懐疑的な意見を述べ、将来その理論が支持されるかどうかわからないようなことを書いている。この本を読んでいると、確かにこちらもインフレーション理論が有力かなと思ってしまう。
私が、この本が良かったと思う点は、宇宙の始まりや膨張の有力説などを、相転移やトンネル効果を用いて説明してある箇所が多かったことだ。今までの一般向け宇宙論では、あまりなかったように思う。それらを用いて説明しているので、膨張論の説明が、私が読んだ本の中では非常に分かりやすかったような気がする。
アインシュタイン方程式の説明なども、一見難しそうにみえる式を明快に説明してくれ、分かりやすかった。
また子宇宙、孫宇宙が無限に存在する宇宙の話は、この本のタイトルから言っても、本題かもしれないが、宇宙の不思議さが加わったようでさらに宇宙論の興味が増した。
どの宇宙論の概説書を読んでも、似たような紹介・感想になってしまうのだが、今回は入門書としては、強く押したい一冊である。
宇宙論に興味がある人には、お薦めの1冊である。
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