私としては、和田竜さんの作品は、
『のぼうの城』に次いで2作品目である(和田竜さんとしては、自身が書いた小説としては3作目)。
帯紙の紹介文に「一五五六年。戦国の大名がいまだ未成熟の時代。勢力図を拡大し続ける戸沢家、児玉家の両雄は、もはや開戦を避けられない状態にあった。
後に両陣営の命運を握ることになるその少年・小太郎のことなど、知る由もなかった―。」
なんて書いてあるものだから、私は、読む前は、何らかの史実に基づいた歴史小説かと思ったが、どうもフィクションらしい。
最後まで、この戸沢家、児玉家両家が争っていた地域はどこか出てこないし、インターネットで、この小説に出てきた川、城名、山、人名などを入れて調べてみたが、それに該当する地域は無いようだ。小説を読了してみて、完全なフィクションと確信した。
粗筋を少し書く。
雑賀衆の祖父に育てられた小太郎は、左利きで、左構えの火縄銃を使うなら天才的ともいえる才能を持っていた。彼の父母が戦で亡くなっていた。小太郎の祖父・要蔵は、戦い倦み、幼い彼を連れて地方へさ迷った後、戸沢家の領地の山間部の猟師として棲みついたのであった。
要蔵は小太郎の銃の才能をひた隠しにした。武士として召し出されるのを恐れたのだ。それで彼には右利きの火縄銃を使わせ、腕が目立たないようにした。そもそも小太郎は、馬鹿かと間違えるほど気優しく、戦いには向かない性格だった。
戸沢家と児玉家が最初に激突した1556年の戦いの際、戸沢家の重臣・林半右衛門は、窮地に陥った戸沢家の大将・戸沢図書を敵軍の包囲の中から救い出した。
図書は、能力が大して無い上に陰湿な性格で、なおかつ半右衛門との間で以前、女で揉めた因縁などがあり、そりが合わなった。図書は戸沢家当主である碧山城主・戸沢利高の甥だったが、戸沢利高には嫡子が居なかったので、図書は次期当主と目されていた人物だった。
半右衛門は、卑怯な振る舞いを徹底的に嫌う性格で、戸沢家随一の武功を誇る武辺者であった。図書は半右衛門には嫌な奴ではあったが、絶対絶命の危機にあった図書を、彼との私的な因縁から見捨てて死なせては自分の名が廃ると思い、命がけで敵の大軍に突入し図書を包囲から逃し、自分は殿(しんがり)として孤軍奮闘した。
図書救出後、戸沢家領地側の敵軍の包囲は厚くて、半右衛門はとてもそちらへは逃げ切れぬと思い、仕方なく逆方向へ逃げ、児玉家の領地の山を迂回して脱出ルートを探した。が、落人狩りに会い、危機一髪の所、児玉家領地側まで猟に来ていた要蔵と小太郎に出会い助けられた。
半右衛門は、小太郎がまだ11歳と若いのに6尺ほどもある体格といい、半右衛門が持っていた左構えの火縄銃に興味を示しているのに気付き、小太郎を戸沢家へ仕えさせることを考える。しかし要蔵はそれに気付き、自分らのことは忘れろ、といい、今後の小太郎との接触を拒もうとした・・…。
登場人物としては、他に敵方・児玉家の隠れなき勇者・花房喜兵衛(半右衛門同様、武辺者)、伊賀忍者・無痛の萬翠(ばんすい)、猟師の息子で鉄砲撃ちが上手い玄太、半右衛門のかつての想い女で図書の妻となった鈴(結婚後、1年で死去)などいる。まあまあのキャラクター設定だ、それぞれに味をそれなりに出している。
帯紙では、キャッチコピーに「少年が、左構えの銃を手にした瞬間、世界は変わる。」としているが、小太郎の得物が左構えの火縄銃で稀代の名手というのも悪くは無い。
主人公は、ただ小太郎だろうか?林半右衛門ではなかろうか、という気もする。事実、半右衛門の目を通して語る部分の方がはるかに多い。そしてキャラクター的にも彼が図抜けて魅力に富んでいる。
著者は、この小説スタイルを、戦国エンターテインメントと言っているようだ。フィクションだし、あくまで娯楽小説として読むべきだろう。
それなりに戦国時代の歴史を調べて、書いてはいるが、司馬遼太郎氏などの歴史小説でも読んだ時の、何かしら深い教訓や感銘を得るほどの深みは無い。
まあフィクションだから、楽しませてくれればそれでいいとしよう。
(この記事は七尾市立田鶴浜図書館から借りてきた本を参考に書いています)
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