私は、どうも本の装画が村上豊だと、その小説が面白いように想(おも)えて、ついつい手にとって読み出すクセがある。たまたまこれ以前の5冊(山岡荘八の『吉田松陰(1・2)』、『高杉晋作(1~3)』)も村上氏の装画であった。滑稽な絵の場合など、ユーモア溢れる小説だと尚更である。
今回も図書館(七尾市立本府中図書館)で見つけると中を一切見ずに迷わず借りてきてしまった(勿論、ファンである諸田玲子さんの本であることも理由の一つだが)。
主人公は舞(まい)という美貌の小町娘で、あの『東海道中膝栗毛』の作者・十返舎一九(1765-1831)の3度目の妻・お民との間に出来た娘である。ただし実母・お民は彼女が生まれると間もなく亡くなり、彼女は一九の4番目の妻・えつが育てられた。この小説の冒頭では18歳の娘として登場している。
ところで一九だが、この本によると駿河屋藤兵衛、通称与七、または幾五郎ともいい、十返舎一九は戯作者としてのペンネームのようだ。元々は武士で、主人に従い、大坂に出てきた頃、武士を捨てたらしい。近松門左衛門に弟子入りし浄瑠璃本も書いていた事があるらしい。
本名・重田貞一(しげたさだかず)。この話がはじまる13年前、舞が5つの時(史実では1802年)に『東海道中膝栗毛』を書きあげ、一躍有名になった。若い頃は、凛々しく美男子だったらしが、今はその面影もなく酒に目がなく、時に大暴れするなど奇行に走る変人。
この本の中では、画家の葛飾北斎とも付き合い深く、北斎の一人娘・お栄(北斎同様、絵師)が、一九の家(といっても通油町の地本問屋の会所にあったボロの借家だが)に(遠慮することもなく我家の如く)居候するほどの関係ということになっている(実際(史実)はどうか私は知らない)。
北斎も一九以上に相当変人だそうだ。引越し癖他色々奇行が多かったとか。
そしてその娘お栄も、絵に夢中になること一通りでなく、家事など一切やらない。四角い顎に細い目…と器量も不細工でもてるはずもない娘だが、一度北斎の弟子と結婚するが、彼女のあまりの変人ぶりに愛想を尽かして離婚されてしまう(この辺の話は小説の中でも出てくる)。ただしこの娘・お栄も、実在の人物かどうか、私は全く知らない。
そして一九の弟子と称する今井尚武という浪人までもが、一九の家に居候することになる。この男も得たいの知れない浪人で、(読んでいて)一九、お栄ほどでは無いが、かなり風変わりな男である。つまり一九の家には3人もの変人(一九、お栄、尚武)と、一九の妻・えつと舞の5人がボロ家に一緒に住むことになる。
主人公の舞は、小町娘と褒めそやされてきた割には、彼女自身の選り好みと父・一九の度重なる拒絶で、この時代では少し嫁(い)き遅れ気味となる。藤間流の踊りを習っていたが、18を越した近頃は、その芸を活かして玉の輿を夢見る娘であった。
ある日、仏具商・尾張屋の跡取息子・兼吉に求婚されるが、どう話そうかと迷ううちに、彼女の家を兼吉が訪れ、一九をはじめ変人達によってぶち壊されてしまう。
残念と暫く落胆していたら、今度は、旗本の野上市之助が、知人に招かれ彼女の踊る姿を見て、一目で気に入り、彼女の師匠を通して直接教わりたいと申し入れてきた。彼女は今度こそと、張り切るが・・…
一九は、妻のえつでさえ、彼の過去は知らないという謎の人物として当初語られているが、話が展開するにつれて、一九(そして彼のもとに弟子入りしてきた今井尚武)の意外な過去が、次第に明らかになっていく。
詳しいことを書くと、読む興味が薄れるのであまり書けないが、三千石の旗本で江戸町奉行まで務めた実在の○○○土佐守直年が駿府にいた頃、もうけた子ということがわかってくる。
ただしインターネットでちょっと調べてみた限りではそういう説はなかった。○○○土佐守直年に仕えたことはあるようだが。おそらく諸田さんのフィクションではなかろうか。こんな事は別に詮索せずともいいのだが、フィクションの場合、史実と誤解するのもシャクなので調べてみたのだ。
余談が、長くなった上、興味減退する話を書いてしまった。スミマセン!
村上豊の装画に惹かれ借りてきた本だが、予想に違わずとても楽しく読めた娯楽時代小説です。皆様にお薦めの1冊です。
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