カテゴリ:児童文学・絵本など
- 『ポプラ社ノンフィクション8 スティーブ・ジョブズ』(ポプラ社)を読了した[ 2012-04-22 01:29 ]
- 『一房の葡萄』(有島武郎著・角川文庫)を読了した[ 2011-04-20 22:34 ]
- 『ひかりのこりす』(森朋浩 作・絵/東本願寺出版部)[ 2010-08-28 13:36 ]
- 『ルイのともだち』(まつなが かな・さく / はやし かよ・え)[ 2010-08-28 10:37 ]
- 『地獄変』(芥川龍之介)他、一話、一詩を読む。[ 2010-02-16 02:53 ]
- 『父と子』(ツルゲーネフ原作:米川正夫/訳:田島準子/文)を読む[ 2009-01-24 21:38 ]
- 『ゴーリキー短編集』(マクシム・ゴーリキー著:袋一平・訳:槇本ナナ子・文)を読む[ 2009-01-16 22:41 ]
- 『金どけい』(パンテレーエフ著:槇本楠郎・訳:平井芳夫・文)を読む[ 2009-01-15 03:09 ]
『ポプラ社ノンフィクション8 スティーブ・ジョブズ』(ポプラ社)を読了した
<百字紹介文>
昨年亡くなったスティーブ・ジョブズの児童向けに書かれた伝記です。子供に限らず‘手っ取り早く彼の事を知りたいがプロフィール程度では不十分、でも1冊はちょっと’・・そんな大人にも最適なジョブズ入門書です。
<詳しい紹介文>
昨年(2011年)10月に亡くなったスティーブ・ジョブズ(アップル社の創立者の1人で、同社の元CEO)にはまっている。
だが先日読んだウォルター・アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』(Ⅰ・Ⅱ)は、スティーブ・ジョブズの評伝の決定版とはいえ、少しボリュームがあったので正直言って読み疲れた。
活字離れ気味の人なら、スティーブ・ジョブズに興味があっても、あの本のボリュームを見ただけで読む気がなくなるのではなかろうか。
この本は、児童書である。著者のパム・ポラックとメグ・ベルヴィソは2人で多くの児童書をものしている作家らしい。
児童書だけに、内容は超平易明瞭だし、だいたい1時間ほどで読めた。1日数冊読めるような速読の人なら数十分で読めると思う。
図書館で借りてきた本だが、中身をよく見ずに借りてきたので、児童書とは気付かなかった。ただスティーブ・ジョブズの生涯を簡単にもう一度読もうと思ったことは事実だ。
そういう意味では目的にピッタリの本だった。
私は実は図書館でよく児童書などを読む。
昔確か司馬遼太郎氏だったとい思うが、何か自分が知らない分野の事を最初に勉強する場合は、子供向けの事典や解説書のようなものを読むと書いてあった。
伝記のようなものに限らず、社会や政治、科学などを子供向けに解説した沢山の本が出いている。絵本のようなものだと、数十分で読めるものも沢山ある。
やってみると確かにいい、児童書ほどいい入門書はないと思うほどだ。
(マンガで解説した本も最近非常に多くなってきたが、監修者がしっかりとした人物でない場合はやめておいた方が良い。マンガの場合は安直で劣悪のものも多い)
恥ずかしくないかと聞かれたこともあるが、私が読書する本を選ぶことに他人の目など気にするのは馬鹿げた事だと思うから、そんな事は全く気にしたことがない。これからも続けるつもりだ。皆様にもお薦めしたい読書・勉強法である。
今回のこの本もジョブズの生涯を非常に上手くまとめていると思った。ウォルター・アイザックソンの本には乗っていなかった写真であらためて、どういうもの(外観)か知った機器も幾つかあった(アップルⅠ、アップルⅡ、Iマックなど)。
スティーブ・ジョブズの本を幾つか読んだが、彼の名言集や、彼の言葉を簡単な業績とともに紹介した本であるが、伝記をコンパクトにまとめたような本はこれが初めてだ。
数日前『ジョブズ・ウェイ』という評伝を買った(近々こちらも読んで紹介したい)が、必ずしも伝記ではないようだ。
プロフィール程度の説明では物足りないが1冊の本を読んでまで知るのは辛いという人にはもってこいの本だと思う。
児童向けといっても、活字離れで、ライトノベルなど大流行のこの時世、十分大人も読める本だと思う。テレビなどで知る内容よりよほど色々知ることが出来る。
本来の児童(小中学生)書としても勿論お薦めですし、さらには手っ取り早くしかもある程度詳しくスティーブ・ジョブズのことを知りたい大人にもお薦めの本です。

『一房の葡萄』(有島武郎著・角川文庫)を読了した
有島武郎の本を読むのは、おそらく三十数年ぶりだ。中学校の頃、「カインの末裔」「生れ出づる悩み」「小さき者へ」など読んだ記憶がある。
本棚の隅にあり、童話である上に、まだ読んでいないのみ気付き読んだのだ。
私は実は童話、おとぎ話、昔話、民謡といったものが大好きだ。
午前中に暇な時があると、よくNHK教育テレビの人形劇や童話などを喜んで観ている。
TBSの「まんが日本昔ばなし」は社会人になってからも大好きな番組であった。
講談社文庫の松谷みこ子さんの「日本の昔ばなし」も全巻何度も読んでいる。
地元石川県や能登の民話・昔話の本なども図書館から時々(子供がいないのに)子供のために借りるかのような振りをして借りてきて読んでいる。
また海外の童話も好きだ。グリム童話は、「本当は恐ろしい…」などと修飾語が付いた本が注目を集める20年以上も前から、心理学者の(故)河合隼雄氏の影響を受けて岩波文庫版を全巻読んだ。アンデルセン童話、イソップ童話、ガリバー旅行記など沢山読んだ。
兎に角好きなのだ。書評ではほとんど採り上げないが、こういう本は心が素直になるというか童心に還り、癒される。現代人のメンタルヘルスにもいいのではなかろうか。
日本の童話作家では、坪田譲治氏、小川未明氏、鈴木三重吉氏といった大御所も悪くはないが、好きなところでは新見南吉氏(例えば「ごん狐」)、浜田廣介氏(例えば「泣いた赤鬼」)。比較的近年では椋鳩十氏、それから地元の、勝尾金弥(かつおきんや)氏などもいい本を書いていると思う。
また段駄羅という雑俳の保存会に入っている関係で、会員の織田道代(おりたみちよ・絵本作家)さんとも面識が出来、こちら七尾市の図書館にも色々と彼女の著書が置いてあり、見つけると読むようにしている。
この本の話とは直接関係無い余談ばかり書いてしまった。
スーッと本の内容に入る気になれずわだかまるような心理的理由があった。童話に興味があるのでこの本を読んでみたが、実のところそれほど面白くはなかったのだ。
有島武郎氏の童話は、この本に納められた8作品が全てだそうである。
収録作品名を列挙すると
「一房の葡萄」「おぼれかけた兄弟」「碁石を飲んだ八(や)っちゃん」「ぼくの帽子の話」「かたわ者」「火事とポチ」「真夏の夢」「燕と王子」。
表題作の「一房の葡萄」はさすが表題作だけに一番良かった。あとは「ぼくの帽子の話」「かたわ者」の2作品がまあまあ童話らしくて良かったかなという程度。他はどうも・…イマイチという感じ。
巻末の解説で坂本浩という解説者は「これらの童話に共通して見られる特色は、かなり深いところまで、人生の悲惨事を追求し、それをリアリスティックに描き出そうとする態度です。・…(中略)・…題材といい、描写といい、本格的なものをねらっていて、普通の童話のような安易な甘さがありません。この点が武郎の童話を芸術的に深めただけでなく、彼の童話文学に対する一見識を示すところなのです」と延べ、有島氏のこの童話集を高く評価している。
逆に私はこの童話の特徴として解説者があげたその内容こそが、この童話をイマイチと感じさせた理由のような気がしてならない。
有島氏の「カインの末裔」や「生れ出づる悩み」のような小説ならリアリスティックに描くことには非常に意味があると思うが、果たしてこんな童話にどうであろうか。
私は童話や昔話の内容に不条理があっても問題は無く、それはそれなりに意味を持ちうると思うが、死の問題やエゴイズムを徹底的に描いたり、人間の欺瞞を暴露したりするというリアリスティックな態度というものは果たして童話と両立するものか、かなり疑問に思うところである。
勿論、人それぞれに意見があろうが、私はどうも彼の童話は好かない。
この童話のほとんどが自殺する前年と前々年に書かれたそうだ。自作の理由は創作の行き詰まりらしい。母親が幼い男の子ら3人を残して他界し、武郎氏がその子等のためにも書いたという理由もあるようだ。子供はそれなりに世の中のリアリズム的なものを理解したであろうが、もっと肩肘張らずに書けなかったのかなという気がする。
第7話「真夏の夢」は、ストリンドベルヒの作品の翻訳というが、そちらは読んでいないので比較できない。第8話「燕と王子」は、オスカー・ワイルドの「幸福な王子」の翻案らしいが、原作の方がずっと出来がいい。有島氏の翻案の変更箇所は詰まらない付け足しとしか言いようが無い、酷評せざるを得ない。
やはり創作に行き詰っていたのだろうか。酷評したくなるような作品にそれを感じてしまった。

『ひかりのこりす』(森朋浩 作・絵/東本願寺出版部)
(この本は、「本が好き!」という本好きのコミュニティ・サイトから本の紹介文を書くことを条件に頂いた本です)
まだ母親の胎内にあるリスが、ひかりのこりすに連れられ、これから子供として生まれ出ようとしている両親や祖父母を見に行く。といっても相手から見える訳ではない。難しく言うなら霊体離脱のような形で訪れる訳だ。またこれから生まれる家の周囲に住む動物たちもどんな仲間がいるのか、見せてもらう。
そこでまだ胎児の赤ちゃんリスは、自分の誕生が皆に待ち望まれていることを知る。そしてなぜ、ひかりのこりすが、自分にこのようなものを見せてくれるのかとふと疑問に思う。・・・・・
最近、衝動的に自殺する子供が非常に増えた。そんな事件を見聞きすると、どうしてそんな些細な事を悩み、親から授かったただ一度の大切な命を粗末にし、自殺するのかと不思議に思う。
おそらく親とのコミュニケーションが希薄で、親などの愛情をあまり感じられずにいる場合が多いのではなかろうか。
愛情を感じられないのも、自分が親からあまり期待されないためではと思い、安直に死を選んでいるのではないかと思う。
子供というものは誰が何と言おうと社会の宝である。たとえ両親からあまり望まれないで生まれてきても、必ず世の中から何かを期待され生まれてきたのだと考えるべきだと思う。
この本は、東本願寺から出版されている本である。仏教説話の「アジャセ王-王舎城の物語」でも最初は、アジャセを自分ら(両親)に害を与える子として、両親はアジャセが生まれる際に殺そうとまでする。しかし一旦生まれ出ると、可愛くて、両親はそんな事があったなどアジャセに教えまいとしたではないか。
人間は、生きる過程で誰しも必ず色々過ちがあり、また自分の理由によるのでなくとも、周囲から嫌われたり蔑まれて生きる場合もあるかもしれない。でもそれに挫けず誠実に真剣に生きていくうちに、きっと周囲は認めるはずである。
現在、親などに期待されていないように思えて疎外感を感じていても、多くの場合は、生まれてきた時や幼い時には、愛されて育ったはずである。
悩める少年少女には、自分の存在価値を卑下せずに、自分が生きていく事の価値を信じて生きてほしい。自殺が一番、受けた愛情や恩を徒で返す行為なのだ。
少し勝手に想像を膨らませし過ぎ、余計な感想を書いてしまったかもしれないが、この本を読んでいて、私自身は上記のような事を取り留めもなく感じた次第である。
『ルイのともだち』(まつなが かな・さく / はやし かよ・え)
(この本は、「本が好き!」という本好きのコミュニティ・サイトから本の紹介文を書くことを条件に頂いた本です)
話は、ルイというひとりぼっちのおじいさんに連れられて公園にい毎日散歩に来る犬と、その公園の原っぱに生えているタンポポらしき黄色い花が公園で出あい、親しい友達になるというもの。
ルイは散歩に連れられ公園に行くと、おじいちゃんがベンチに座っている間、いつもその黄色い花と話し合うのだった。黄色い花は、公園の外を見てみたいと思うが、見ることが出来ない。それをやさしいルイが思いやり、自分が散歩の途中目にしているなどを語るのだ。
この本の作者、まつなが かなさんは、このはなしを書く前は、言葉や行動が荒れていたという。この本を読んだ印象からはちょっと信じられないが、事実なのだろう。
それまであまり親などから愛されてこなかったかもしれない。荒れた言葉を吐いたり、荒れた行動をとったのも、自分に関心をもってほしい気持ちの裏返しだったのではなかろうか。理解してもらえない寂しさだったのではなかろうか。
私は、10人以上の大家族の中の末っ子として生まれ、親は「放っておいたら、いつの間にか大きくなっていた」と述べているが、私本人からすると十分愛情を受けて育ったと思っている。
どんな人間も愛情を欲しているのだと思う。愛情を感じられずに、育ったら、人生の色々な筋目で助けや逃げ場所が欲しいと思っても、得られず孤立して収拾がつかなくなるような気がする。
また今まで自分を守ってくれる人がいなかっただけに、自分が行う行動に自信が持てず落ち着かないだろう。おそらくそういう時に荒れた行動・発言を行うのだろう。
作者のかなさんは、カウンセラーのもとで悲しみを言葉にする訓練を続け、(中学3年だった)ある日「今日は何か物語をかいてみようか」と提案したら、この話があっという間に出来上がったのだという。
話の結末は、犬のルイには意外な展開だが、非常に心温まるほのぼのとしたものだ。友情から他人への思いやり、そしてそれが新たな段階を迎え、相手への思いやりが、恩返しなどというかたぐるしいものでなく、友情のごく当然の行為として行われようとする。
かなさんもそんな心の交流・コミュニケーションを欲していたのだろう。どんな人間も、生まれる前から荒んでいたり依怙地なのではない。それまで育ってきた環境などのせいで、意志の伝達が他人より少し下手なだけである。
この絵本は、大人の私にも子供との接し方を色々考えさせてくれる大変参考になる本でした。
この絵本を読めば、大人も子供も、きっと何かしら心を豊かにしてくれるサービス券をもらえると思います。お薦めの一冊です。
『地獄変』(芥川龍之介)他、一話、一詩を読む。
今夜はどうも眠られないので、子供向けの本でも読みながら明かすことにした。
本は『地獄変 中学生の文学12』(成城国文学会編・ポプラ社)に収められている作品のうち、最初の3作品だ。
児童文学書といっても、外国文学以外は、日本の有名な文学作品をそのまま載せている訳だから、童話などとは違う。語句説明なども多くて、かえっていい。
この本を含めて某人から古い時代に発刊された世界の児童文学などの作品集を大量に譲り受けている。譲った人は、まさか私が読むとは思わなかったかもしれない。でも読んでいない作品が収まった本が沢山あるから勿体無い。これからもそういう本も時々読んでは紹介していくつもりだ。
さて繰り返すと今回読んだ作品は
①『朝食』(スタインベック著・大久保康雄訳)
②『初恋』(島崎藤村)
③『地獄変』(芥川龍之介)
の3作品。
①は非常に短い小説。旅をつづける一人の青年が、綿つみ労働者の家族に朝食を振舞われ、別れていくという、ただそれだけの小さな出来事を描いた作品だ。朝の美しい情景や、素朴な人々の暖かさなどを描いています。
②は有名な詩だから特にコメントはしなくてもいいでしょう。
③はたぶん私が中学生の頃、芥川龍之介の短編集で一度読んだ記憶がある。よって再読のはずだ。
さて話の内容だが、堀川の殿に仕える良秀という絵師がいた。彼は凄い力量の絵師だが、驕り高ぶり他人からは嫌われていた。自分で見たものしか画けぬ絵師でもあった。この絵師には器量のいい娘も一人おり、その娘も堀川の殿の女官の一人として仕えていた。
ある日、彼は堀川の殿から地獄変の絵を描くよう沙汰される。その日から彼は弟子に危険な目にあわせたりしてその様子をスケッチするなど始めた。がそのうち元気がなくなってきた。ある日大殿のもとに来て言うには、大方描き得たが、今ひとつ描けないものがある。
車の中の上臈が、猛火の中に黒髪を乱しながら悶え苦しむ様を見たいという。しかも自分は見たものしか描けないが、それは未だに見たことが無いので描けない。だから大殿にどうにかそれを実現してほしいと言うのだ。そして数日後、大殿はそれを約束通り実現するのだが、車の中にいたのは・・・・。
悪魔に魅入られた絵師、良秀。ちょっとだが、メフィストフェレスに魂を売った『ファウスト』を想起させる。
芸術の完成度を追求する優れた芸術家の常識を超えた価値観の威厳さとそれから起こる悲劇とでも言おうか。
この作品に出てくるこの話は、『宇治拾遺物語』と『古今著聞集』のどちらにも出てくる話で、完全なオリジナルではない。
芥川の他の作品『芋粥』『蜘蛛の糸』『羅生門』『杜子春』などと同様古典に取材した話だ。
話の構成の仕方などは、オーヘンリーのようなストーリーテラー的巧みさを持った天才的な上手さがあると思う。芥川の作品は、久し(おそらく30年以上)ぶりに読んだが流石である。
『父と子』(ツルゲーネフ原作:米川正夫/訳:田島準子/文)を読む
今日2つめの紹介記事だ。
今月2度紹介した『少年少女世界の名作文学 ソビエト-3』(小学館)の中に収められた作品の一つだ。ボリュームは上下2段の106ページ。
著者は世界的にも有名なイワン・ツルゲーネフ(1818~1883)。解説によると彼は、モスクワから南340kmほど離れたオリョール市に生まれた。母は数千人の農奴を持つ大地主だったようだ。農奴たちへの専制君主のような苛酷な振る舞いは、幼いツルゲーネフの心に深く刻まれたようだ。
後に『猟人日記』で農奴制の悪を暴いて政府から睨まれたり、『その前夜』で人並みの人生に飽き足らない主人公が、人類幸福の為に革命家のもとに走る姿を描くなどしたようだが、幼き日の影響が、反発として強く出たのであろう。
成長してからは、フランスをはじめ諸外国で暮らすことが多く、亡くなったのもパリだそうだ。
この小説『父と子』に出てくる主な登場人物もほとんどが貴族階級か地主である。
登場人物の紹介も兼ねてちょっと書く。主人公のバザーロフは医者の一人息子。バザーロフの母親が地主階級ということもあり、彼の家に仕える者は22人もいる裕福さである。彼の崇拝者のアルカージーは、これまた更に大きい地主というか貴族で、ニコライ・ペトロービッチ・キルサーノフ家の一人息子である。ニコライの兄にあたりニコライの家に同居しているパーベルも、元軍人で若い頃は美男で貴族の社交界の花形。
また小説の途中から出てきてバザーロフを虜にするアンナ・オジンツォーフという女性も、資産家の出身で、両親の死で一時零落するが、オジンツォーフという大金持ちと結婚し、その夫が亡くなった後は、莫大な財産を継いで悠々自適の生活をしている。
まあこんな感じである。
ツルゲーネフが生きた頃のロシアは、ロシア革命の前で、これら少数の貴族や地主と、大多数の農民で成り立っていた。
物語は、主人公バザーロフとアルカージーの二人がペテルブルグ(現サンクト・ペテルブルグ)の大学を卒業し、馬車で一緒に帰省するところから始まる。バザーロフは自分の家に帰る前に、アルカージーの家(キルサーノフ家)に立ち寄りしばらく滞在する。
バザーロフは、若き日の著者の姿をある程度投影しているのだろう。彼は父と同様医者の勉強をしてきたが、頭が良く、ニヒリスト(虚無主義者)になっていた。
そんなバザーロフは、ニコライやパーベルを古い時代の人間と見做し侮蔑する。特に田舎にいても貴族ぶるパーベルとは相性が悪く、パーベルはバザーロフを強く憎むことになる。
キルサーノフ家が嫌になったバザーロフは、近くの町の舞踏会へアルカージーと出かけ、アンナ・オジンツォーフという綺麗な女性と知合う。彼女の家に遊びに来るようにと言われ、二人は出かける。最初は、誇り高くとまる彼女に対して高慢な態度で接していた彼も、次第に深く彼女を愛するようになる。・…
私は始めのうち、パーベルの姿に「大学を卒業したくらいで何を…」と憎らしく感じた。でもこの頃のロシアの大学なら日本の現在のような大衆の大学とは違い、エリート養成所みたいなものだからこれが普通かもしれない。
彼が後ほどアルカージーを連れて帰ることになる実家では、父母が一人っ子の彼を待ち詫びていた。パーベルが家に帰り着くと、一時も側を離れようとしないほど彼を愛している様子が描かれている。そんな息子を愛して止まない親を見ると、今は捻くれているけど、根は案外いいやつかもと思えた。
小説の最後は悲劇で終わる。これ以上詳しく書くと、ほとんどネタばらしする事になり、興味が減退するだろうからやめておく。
貴族や地主など古い体質の支配階級社会と、自由主義者・ニヒリストとしてのバザーロフの対比を描き出そうとしたのだろうか。私は文学的才能が無いので、恥ずかしながら著者ツルゲーネフが言いたかった主題を明確には言えない。
私としては、ロシアという国を知る一つの参考にもなった。風土の一つの要素をなすこういう歴史的背景は、歴史の本ではなかなか捉え難い。こういう小説を読むのが一番だと思う。
少年少女向けでない大人向けの翻訳でももう一回読んでみたい。
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『ゴーリキー短編集』(マクシム・ゴーリキー著:袋一平・訳:槇本ナナ子・文)を読む
昨日取り上げたのと同じ『少年少女世界の名作文学 ソビエト-3』(小学館)の中に収められた短編集だ。
収められた話は「イゼルギリばあさん」、「チェルカッシュ」、「海つばめの歌」、「幼年時代」の4話。
解説によるとゴーリキー(1868~1936)が生まれたのは、ヴォルガ川に望むモスクワの東、約4百数十キロのにあるニンジー・ノブゴロド市(現ゴーリキー市)の地。家具職人の父を彼が5歳の時に亡くし、続いて母も亡くし、9歳で扶養してくれる家族もいなくなり一人で生きていく。
9歳から靴屋の小僧、パン職人、沖仲仕、夜警など広いロシアの大地を色々な職業を探し求めて転々とした。そして黒海の西の山岳地帯のカフカス地方の都チフリス(現グルジア共和国の首都・トビリシ)で処女作『マカル・チュドラ』を書いて作家生活に入ったとある。代表作としてはここに収められた作品の他に戯曲『どん底』、『敵』、長編小説『母』などある。
第1話「イゼギルばあさん」
色々な経験をしてきたモルダビア人(現在モルだビア共和国は黒海の北西でウクライナ共和国の南にある)のお婆さんが、(ゴーリキーらしい)若い男に、(黒海のほとりらしい)海辺の夜空の下で昔の伝説を語るというスタイルで書かれる。
一つはラルラという誰からも相手にされない男の話。ある国で何千年もの昔、鷲が人の娘を攫い行方を晦ますといった事件が起こった。20年後その鷲が亡くなってから、その娘は鷲との間に生まれた息子を連れて故郷の村に戻る。が、その息子は人間と鳥の王・鷲との間で生まれただけあって傲慢であった。人に相手にされず、神も彼に不死身という天罰を与えた。最初のうちは不死身をいいことに気の向くまま悪さをしていたが、そのうちどんなに死のうと思っても死ねない事に身もだえながら世界を彷徨い、今では・…
もう一つの伝説はダンコーという若い勇者の話。昔ある深い森に住む人々の所へ、ある日見たことも無い人々が攻めて来て、彼らを深い森の奥に追い込んだ。そこは日光さえろくに届かぬ土中から毒が煙のように上がってくる地。そのため多くの人が亡くなり、人々は困窮した。森は非常に深く、伐り進んで敵が居ない方向へ抜け出るのは無理のように思われた。そんな時、ダンコーが立ち上がり、仲間たちを先導して森を抜け出ようとした。しかし苦難の道であった。次第に人々は苛立ち彼を殺そうとする。彼はそれに気付いて驚く行動に出る。…
第2話「海つばめの歌」
これは2ページほどの話。タイトルに「歌」とあるように叙事詩のようなものだ。内容は、雷や黒雲、荒波が喧嘩しあい荒れ狂う嵐の海を、それをまるで楽しむかのように飛び回る海燕の話である。喩えて言うなら、荒れる海を相手のカモメのジョナサンならぬ海つばめを謳ったもの。ロシアなど共産圏では、詩人が未来を予言するというロシアの伝統にのっとって、プロレタリア革命の到来を予言した詩として有名な詩らしい。
第3話は「チェルカッシュ」
ある港町に住むチェルカッシュというコソ泥の男が、百姓出身でその港町に働きに来ていた臆病なガブリーラという若い男を誘い、仕事内容を明かさず、夜中にボートを漕いである場所に付け(明確に書かれていないが、どこか港の保税置場かな?)、そこの品物を盗み大儲けをするという話。最初は危ない仕事に引き摺りこまれた事に戸惑うガブリーラだが、仕事が成功し実際に540ルーブルもの大金を二人で稼いだとわかると、次第に欲深な性格を露にする。ついには思いがけない行動に出る・…という話。
第4話「幼年時代」
先にゴーリキーの略歴を紹介し、そこで彼は9歳までに父母を亡くし、以降一人で生きる事になったと書いた。この話は彼が父を亡くしてから、母の父母の地、すなわち祖父母の地へ行き世話になるが、そこでも母を亡くして、彼が一人で生きていくことになるまでの間の体験談である。
祖父母の地へ船旅で移動する有様、優しい祖母の姿、大勢の家族が祖父の財産をめぐっていがみ合っている生々しい人間の姿が描かれている。
4話を読んで、自分としては「ふーんこういう話、児童文学に向いているかな?」という気がしたが、こういう体験談のようなものの方が子供の胸に響いてくる生々しい力があるかもしれないとも思った。
何よりも、文章を読んでいるだけで、日本とは違うロシアの大地というものが感じられる気がした。
このカテゴリでの次回の記事はツルゲーネフの『父と子』を予定している。乞うご期待!
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『金どけい』(パンテレーエフ著:槇本楠郎・訳:平井芳夫・文)を読む
今回「童話・絵本など」のカテゴリで初めて記事を書く。今まで児童文学で記事を書くことはほとんど無かったが(2,3有り)、実は結構、児童文学、童話、民話など読む。私のブログでなくメインのHPでは、地元の民話・伝説などを沢山集めてきて紹介したりもしている。 何かこういう話を読んでいると、心が癒されるのだ。今回は別に精神的に疲れているとかそんな訳ではないが、何故か眠れぬので、疲れぬ本でも読もうかと考え実行した訳だ。読んでみると、確かに漢字は少なく、語彙も小中学生程度、修辞など文学的表現はあまりないが、最近のケータイ小説(読み易いことは確かだが)などよりは、よっぽどマシな文学作品である。考えようによっては宮部みゆきくらいの文章力はありそうだ(別に宮部みゆきさんを貶している訳ではない。私も大のファンである)。
今後も、童話・民話さらには絵本なども読んだら、このブログで紹介していこうと考えている。
今回取り上げた小説『金どけい』は、私の幾つかある本棚の1つの奥に埋まっていた分厚い小学館の『少年少女 世界の名作文学<35> ソビエト-3』という本の中の巻頭の作品である。子供の頃からこの本があったのは覚えているが、兄姉の誰かが読んだ本で私は今まで一度も読んでいない。
この中に、他にも何人かの児童文学が収められている。追々読んで今後も紹介していきたい。また勿論、この本以外の児童文学、民話、絵本などもこのカテゴリで記事を書いていくつもりだ。
この作品『金どけい』の著者は、ぺテルブルグ(現)生まれのエル・パンテーレフという人物だ。粗筋で内容を少し紹介する。
ペーチカという全く身寄りのない浮浪少年が、ある日腹をすかせて、警察に捕まり留置場に入れられてしまう。彼は留置場の隣の部屋に居た酔っ払いから、金時計を巻き上げる。酔っ払いはその時点では気付かず、彼はその日しばらくしてから署長に呼び出され、少年収容所に送られることになる。
そこで盗んだ時計の隠し場所に一思案。警察でも、移動中の町でも、また収容所でも何度か見つかりそうになる危機を彼は何とか回避する。そしてある日、中庭に人の居ないのを見計らって、穴を堀り、目印をつけて埋めてしまいます。
しかしその後、収容所に薪が大量に運ばれ、時計を埋めた位置にトラックで運ばれた薪木が山と詰まれ、簡単に堀り出せなくなります。
ある夜彼は、寝室をそっと抜け出し、中庭に出て、自分の身の丈もある位詰まれた薪木をどけながら、時計を掘り出そうとしますが、あとわずかで薪をどけ終えようとしたところで、周りの薪が崩れてしまい、気付かれては拙いと考えた彼は、急いで寝室に戻ります。
彼はその夜から、寒夜での深夜の作業がたたり肺炎に罹って3週間ほど魘(うな)されて寝ることになります。目覚めて少しよくなったある日、収容所で知り合った黒んぼうのミロノフが見舞いに来て、退屈しのぎに本を読んでみろといいます。彼は本など苦手、御免蒙ると言うが、その夜何故か寝付かれず、本をペラペラとめくり・…ある絵に惹きつけられ、中身が気になり、それが契機で本を読み始めます。…気が付けば本にのめり込んでいました。
本を読むようになるまでは、彼は、警察署長、巡査、収容所の所長、友人たちなど彼らは皆結構親切な人たちなのに、嘘をつき、騙し続けます。しかしこの本を読み始めた日を境に、彼の心境は少しづつ変わっていきます。・・…
少年少女向けの小説としては、まあこんなもんではなかろうか。
著者のパンテレーエフ自身、少年時代は浮浪児で、“シキード”と呼ばれた少年収容所に13歳から入っていたという。いわば彼が体験してきた世界を書いたものといえよう。
ボリューム的には、上下2段に書かれた60頁余りの小説です。現在この小説が収められた本を簡単に入手できるとは思わないが、ロシアでは広く人気のある作家だそうだから、図書館などで偶然目にする機会があれば、読んでみるのも悪くないと思う。
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能登をこよなく愛する好奇心旺盛な40代後半のブルーカラーの源さんです。趣味の1つ読書(本の紹介・書評中心)のブログです。年間150冊前後読みます。2005年からこのブログを始め、既に1千冊以上を紹介しています。
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