キリンの首はウイルスで伸びた
佐川 峻 / 毎日新聞社
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この2人のコンビによる本は、4つ前の記事(『新・進化論が変わる』(講談社ブルーバックス))でも採り上げている。出版年からいえば、今回の本の方が古いようだ。またこの本は『語りだすDNA』の続編との事だが、そちらは私はまだ読んでいない。
私は、『新・進化論が変わる』で、この著者らが唱えるウイルス進化論というものに非常に興味を覚えた。図書館ですぐ彼らの他の著書を見つける事が出来、早速借りて読んでみたのだ。
生物が進化するためには、生物の設計図である遺伝子が変わる必要がある。これまでの進化論は、進化は遺伝子の突然変異によるとされた。木村資生氏の中立論にしても、遺伝子の突然変異による進化論である事には変わりない。
それに対してウイルス進化論は、ウイルスによって運ばれたDNAによって、直接遺伝子が変わり、進化が起ると考ている。著者らは、分かり易く「進化はウイルスによる伝染病」とも表現している。
ダーウィン以来、全ての進化論が、DNAが親から子という垂直方向にしか伝わらないとしたのに対して、ウイルス進化論では、DNAが水平方向にも移動できると主張する。
ダーウィンの進化論では、遺伝子の突然変異の微々たる積重ねを多年にわたって経ることでしか進化ができない。だが化石の骨などからDNAを分析する技術など調べられるようになり、ある動物から新しい別のある動物への変化、つまり進化は意外と短い期間に急激に起こった可能性が高いことがわかってきた。ダーウィンの説を支持するネオダーウィニズムの学者らは、その説明に窮しはじめた。
それに対してウイルス進化論は、遺伝子工学の技術で、実験室の中では既にその可能性がありうる事を実証しており、後は自然の世界でも実際に起きているかどうかだけの問題となりつつあり、急に脚光を浴びている説らしい。
ただしもうこの本が書かれてから十数年経つ。現状では、どれ位支持されているのかは、私は専門家ではないのでその辺の事情は知らない。
ところでこの本は、著者らが主張するウイルス進化論を、章立て的な構成で、一般向けに解説した本ではない。もっと軽い本だ。いわばエッセイ集である。
内容もウイルス進化論ばかり述べているのではなく、DNAに関わる色々な話題を数ページのエッセイにそれぞれまとめ、集めた本といった方が分かり易い。時には、生物学の観点から、政治や社会に対して辛口の批判など加えてもいる。
あとがきによると、毎日新聞社が「サンデー毎日」に2年以上(1992年4月19日号~1994年11月27日号)にわたって連載した「DNAミステリーツアー」の後半部分(1993年10月17日号~)に書き下ろしを加え纏めたものだそうだ。
内容的には、ちょっと雑学本的な感じもする。DNAや進化論の知識をキチンと学びたい人には不適だが、今や最も注目を集めつつある科学分野である生物学に気楽に触れたい方には、ちょうど手頃でいいかもしれない。
数十年前の古い本だが、それでも素人にはまだまだ新鮮な話題が多いのではなかろうか。私は、ゲノムとかDNAといった分子生物学の世界が大好きで、この関係の本を色々読んでいる。それでもこの少し古めな上にエッセイ的かつ雑学的な本でも、新たに知った内容も幾つかあった。
例えば、生物の中で一番種類が多いといわれる昆虫、彼らは猛毒の液体の中とか、地中、地上、空中と地球上のほとんどの場所に棲息するが、唯一海に棲んでいないという。言われてみれば確かにそうかもしれない。そして地球上の生命が本来感知しえない波長の光(電磁波)にも反応するという。よってある学者からは、昆虫は宇宙から来たインベーダーだという説を唱える学者もいるそうだ。かなりユニークな説でSF的であるが、謎であることは確かだ。昆虫のその超能力的能力の理由が知りたいと思った。
とにかく読んでいて楽しい本である。科学とは、本来暗記科目ではないはずだ。今日の日本の科学の教科書など見ると、私の学生時代(30年ほど前)よりももっと暗記的科目になり、面白くない教科となっているような気がする。こんな馬鹿な科学教育をやっていては、日本の若者は益々理科場離れし、後進国へ急降下しかねない。
そういう事態を避けるには、こういう本をどんどん読ませて感想を書かせるとか、もっと興味を沸かせる教育であってもらいたいものだ。また若者には、こういう本を積極的に読んでもらいたい。この程度の内容なら、別に基礎知識がなくても中学生でも読めるはずだ。
科学というものを多くの若者や一般の方々にもっと身近に感じてもらうためにも、全ての人に薦めたい一冊である。
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