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『老化-DNAのたくらみ』(土居洋文著・岩波書店)を読了した

老化―DNAのたくらみ (NEW SCIENCE AGE)

土居 洋文 / 岩波書店

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 まず裏表紙に書いてある内容紹介の文を転記する。
「おどろくべきことに,老化どころか不死身だという生き物だってたくさんいる.この相異なる事実が実は同じしくみで引き起され,すべては生れる前からプログラムされているらしい.いったい老化とは何か.真の意味を明らかにする。」

 老化はなぜ起こるのか。著者は、老化の説にはDNAの翻訳エラー説、細胞分裂寿命限界説、活性酸素障害説、クロスリンク説など色々あるが、それまでイマイチ満足のいかなかったという。が、あのリチャード・ドーキンスの名著『利己的な遺伝子』にヒントを得て「もし、遺伝子がヒトを老化させたがっているとしたら、それは子孫に対する利他的な振る舞いだ」と考えた。そして大胆な仮説を展開したのが本書です。

 リチャード・ドーキンス自身は、あの本の中で「利己的な遺伝子」で老化を語るのは難しいという意味合いの言葉を述べているが、著者の土居氏は、自分が研究してきたファミリーを形成している遺伝子に関する知見や、ゾウリムシやボルボックスの知見を加味すれば、うまく整理でき説明できることに気付き本書を著したという。

 死が確実に起こる多細胞生物でも、遺伝子レベルで考えれば、遺伝子が子々孫々に伝えられるという意味では不死身といえる。遺伝子の中には、遺伝子の仲間の中でも、自分だけが子孫を通じても勢力を伸ばしたいという遺伝子があり、それを本書では利己的遺伝子と呼んでいる(ドーキンスより少し限定的な概念のような気がする(私・源さんのコメント))。

 利己的な遺伝子は遺伝子の中でも多数を形成し、ファミリーを形成するという。そして優れた利己的遺伝子は、固体発生をコントロールする遺伝子とか生命の恒常的な維持を担うホメオスタシスの遺伝子など、他の遺伝子をコントロールするようなさらに上位の遺伝子であることなどが紹介される。

 利己的遺伝子をさらによくみると、生殖細胞を通じて子孫に伝えたはずの遺伝子に対して、今度は利他的な振る舞いをして、ポスト生殖期には体細胞集団である自己を攻撃するようになるという。
 例えば免疫についてはこうだ。T細胞は普通胸腺などで「非自己」と「自己」の違いを見分ける訓練を受けてから体内に放出され、B細胞など他の免疫細胞とネットワークを組み連絡しあいながら撃退する。しかし胸腺は10歳前後まで成長するがそれ以降は徐々に衰えると言う。これなどポスト生殖期というにはあまりにも早いが、胸腺のコントロール不足が進行し、T細胞が訓練されずに放出されることが多くなると、それによりT細胞が、「自己」へも攻撃するようになる。よって免疫細胞が今度は逆に色々な病気を引起したり老化のもととなることが出てくる。これなども著者によれば利己的遺伝子の利他的な振る舞いの一面と考えているようだ。
 
 また固体をつくる発生の遺伝子やホメオスタシスの遺伝子が、自己を攻撃するようになる。この攻撃により固体は衰退し老化するのだと言う。

 固体を衰退させ殺す自己攻撃のメカニズムとして、先ほどの免疫系では例えば免疫グロブリンなどがあるが、他にもステロイドホルモンのレセプター、TGFベータのファミリー、動きまわる遺伝子、テロメア、活性酵素、ガンなど紹介。ヒトは何重にも、ポスト生殖期に、固体を衰退させ殺すメカニズムをもっているという。

 本書では、利己的な遺伝子が、子孫に対しては利他的な振る舞いとして老化を引きおこすということが一つのテーマであるが、あともう一つ、「体細胞と生殖細胞」の違いが、もう一つのテーマになっている。体細胞と生殖細胞の違いが、老化を解明する上での鍵であり、細胞のもつ分列寿命の限界も、その違いに起因した、テロメアを介した体細胞の生殖細胞(子孫)に対する利他的振る舞いによるものだと著者はいう。

 この本が書かれてから18年近く経ち、その間も分子生物学などは驚異的な進歩をしたが、現在著者のこの仮説がどこまで専門家の間で妥当なものとみなせるに至っているかは、私は素人なので知らない。しかし分列寿命のテロメア説はかなり浸透しているように思う。
非常に鋭い考察で為になる本である。

 昨年、私は多田富雄氏の『免疫の意味論』という本を読んだ。この本も老化というものを遺伝子という分子レベルまでさかのぼりその意味論を考察するという点では、『老化の意味論』と名づけてもおかしくない本だと思った。

 私ら凡庸な人間は、死という無になることをひどく恐れる。できれば長生きし、さらには不老長寿を願うが、生まれてきた以上、死はやはり定められたものであり誰にも平等に訪れる。前向きな人は、宗教的に悟りを開くとか哲学的に死生観をもつなどして色々それらに対する対処方法を行う。

そういう方法も悪くは無いが、21世紀の科学が進んだ現代に生きる我々としてみれば、このような生物学的な「老化」の考察からその意味論を考えることも有意義な事であると思う。多くの人に薦めたい一冊である。
 (この記事は七尾市立本府中図書館から借りてきた本を参考に書いています)

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by une_genzaburo | 2009-01-14 16:00 | 読書 | Trackback | Comments(0)
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能登をこよなく愛する好奇心旺盛な40代後半のブルーカラーの源さんです。趣味の1つ読書(本の紹介・書評中心)のブログです。年間150冊前後読みます。2005年からこのブログを始め、既に1千冊以上を紹介しています。
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