楽しい古事記 (角川文庫)
阿刀田 高 / / 角川書店
ISBN : 4041576237
スコア選択: ※※※※
『古事記』に関しては、以前に註釈付きの対訳本や一般向けの概略本、邦光史郎氏の『『古事記』の謎』など色々読んでいる。といっても今だにそれほど面白いと感じたことがない。
今回の本のタイトルも『楽しい古事記』だったが、実のところ、それほど面白いとは思わなかった。阿刀田氏は東西の古典をわかり易く書くことでも定評のある作家だが、全部読んだ訳ではないが、その中でもこの本が一番つまらないのではなかろうか。
別に阿刀田氏の文章力が悪いわけではないと思う。『古事記』自体が、阿刀田氏も本の中で色々述べているが、天皇など皇族の系図などを述べた箇所とか読んでもどうでもいいようなつまらない話が余りにも多いからだと思う。
特にヤマトタケルノミコトより後の話は、ガクンと落差を感じるほどつまらなくなる。イザナギ、イザナミの国造り、アマテラスの岩戸隠れ、スサノオノミコトの八俣の大蛇の退治、海幸彦山幸彦、白兎伝説、国譲りの話、神武天皇の東征、ヤマトタケルノミコト(倭建命)の話位までなら何とか興味を保てる。
不敬不遜といわそうだが、神功(じんぐう)皇后、応神天皇、仁徳天皇、雄略天皇ほかの天皇たちの話は、たとえエピソードがあっても、前半の話ほど読んでいても面白く無い。
阿刀田氏は、それでもできるだけ楽しく読ませようと、つまらない話は極力省いて、そのユーモアセンスで出来るだけ楽しく解説をしているのだが、どうも面白く無い。
『古事記』に関する本を数回読んでも、それもできるだけ面白く解説した本を読んでも面白くないという事は、やはり『古事記』は日本最古の書物とはいえ、それほど面白い本ではないという事であろう。
価値観が今と大きく違う事もあるのかもしれない。
古事記に関しての本を読んでいつも思うことだが、古代はヤマトタケルノ命にしても、応神天皇、雄略天皇にしても騙し討ちが非常に多いなあということだ。昔の天皇家は結構卑怯な事をしたんだなあと。でも阿刀田氏がチラッとどこかで書いていたが、古代は騙まし討ちに遭うのは騙される方が悪いのだという。価値観が今と大分違うのだろう。儒教や仏教や武士道などで結構矯められ変遷してきた現代の倫理観で見てはだめという事だろう。
神様も今とちがって非常に人間的だし、おおらかである。かなりエロな秘め事の話でも、「成り成りて、成り合わぬところに、成り成りてなり余るところを刺し塞ぎて」などと格調高く、しかし言葉はともかくかなり大胆に描いているところは、阿刀田氏でなくても誰でも最初はドキンとするのではなかろうか。
ああいう大らかな精神や荒々しい精神が満ちていた世でなければ「壮大にして奇抜、そして破天荒」な神々や歴代天皇などの武勇伝や色恋の話は出来なかったに違いない。
ゲルマンの『ニーベルンゲンの指輪』やギリシャの『イリアス』『オデッセイア』などほど壮大ではないが、これは他ならぬ日本の神代と古代を伝える叙事詩である。
『古事記』は稗田阿礼が誦(よ)み習っていたものを太安万侶が筆記したのは有名だ。変体の漢文で書かれているが、阿礼と安万侶とによって纏められるまでに伝えられてきたのは古代大和言葉のはずだ。その古代大和言葉の多くが失われ、その背景となる事実も伝えられること無く消えてしまったものも多く、そのため理解し難い面も多々ある。
色々考えるとあまり面白くなくとも、やはり我々よりさらに後世の日本人にまで伝えていくべき物語であろう。でもやはり最初から取っ付き難くては、一生涯の間、ろくすっぽこの古典を知らないで過ごすことになる。
そういう意味では、多くの人に『古事記』の良き入門書として、この本をお薦めしたい。
【参考】
Amazon.co.jpの本の内容紹介(「BOOK」データベースより)を転記しておく。
「嫉妬深くておんな好き、だだっ子で暴れん坊。神様は、こんな人間的だった。イザナギ・イザナミの国造り、アマテラスの岩隠れ、八俣の大蛇、因幡の白兎。古代、神々が高天原に集い、闘い、戯れていた頃―。史料をもとに伝説の地を訪ね、物語のあとを辿った著者が神々と歴代の天皇の、奇抜で人間的な武勇伝や色恋をみずみずしく、且つユーモアたっぷりに描く。」
ここまで読んで評価してくださる方は、できれば下のバナーをクリック↓してくださると有り難いです!
←ランキングに参加しています!