今年8月末に新聞の新刊広告で佐藤雅美氏の新シリーズ登場ということで、この本が大きく載っていた。自称佐藤雅美ファンの私としては、この本は絶対読まねばなるまいと思って、その後、地元の本屋や図書館を色々探したがなかなか見つからなかった。先日七尾市田鶴浜図書館へ行ったら、新刊コーナーにあったので、早速借り出し読んでみた。
しかし読んでみて、おやっと思った。主人公の町医・北村宗哲の過去というか前歴が、同じ佐藤氏の啓順シリーズの主人公・啓順とほとんど同じ境遇なのだ。私は勿論、佐藤氏のあの啓順シリーズも3作品全部読んでいる。
主人公を敵として追っかける相手の親分の名もよく似ている。啓順シリーズでは「聖天松」だし、この本は「青龍松」。東海道筋での話の経緯もほぼ同じである。その辺の関係が、気になりつつ最後まで一応読んだ。
それで読了後、気になって(インターネットで調べたり、図書館などへ行ったりして)色々比較してみた。この宗哲シリーズは、過去の話に登場する者と名は違ったりするが、啓順シリーズの中で、ほとんど同じ役回りがで登場する者もいるのがわかります。よって、この本(宗哲シリーズ)は、どうやら啓順のその後の話ということのようだ。
この本は、あとがきもなく、その辺の理由が全然書かれていないので、知らない人は全くの新シリーズとして読むかもしれない。逆にそうして読んでもらうように作品が仕上げてあるのかもしれない。これには啓順シリーズが、講談社から出ていたのに対して、この本は角川書店であることなども、何か裏事情としてあるのかもしれない。
宗哲の前歴として出てくる話を少し紹介。青龍松は、自分の息子の敵として宗哲を手下を使い追い回していた。宗哲は、奥医師だった者の庶子であり、医学舘などで医学を学んだこともある人物で、逃亡先などで医術や按摩の真似をして口に糊したりしていた。逃亡に疲れていた宗哲は、(青龍松の手下として)彼を追っかけていた黒門と対峙した際、逆に青龍松を一緒にやっつけようではないかと黒門を説き伏せ、手を結ぶ(よく似た場面は啓順シリーズにもあった)。(これ以降の話は宗哲シリーズで初めて展開される話↓だと思う)
宗哲は、黒門と手を結んで江戸へ戻ると、江戸での双方の勢力は一時拮抗した。しかし資金力から啓順・黒門側が劣勢になる。そういう時、啓順と五分の杯をかわした風神の半五郎が子分30人を引き連れて味方として駆けつけた。啓順らは勢力を建て直し、一人一人とじわじわとやっつけていく。そのうち青龍門側が雪崩をうったように総崩れとなり、宗哲が孤立無援となった青龍門のところに乗り込み引退させる。その後、宗哲は渡世の世界から足を洗い、医者に戻った。以上が、主人公の過去・前歴・プロフィールでありこの設定で話が進む。
宗哲の開業当時は閑古鳥が鳴く状況だった。彼の友人で幕府の奥医師の最高位の法印にある多紀楽真院などが、宗哲のことを名医であると吹聴した事もあり、開業10年後の今では、患者は引きも切らないほどの大繁盛。今では江戸でも知る人ぞ知る名医となっていた。
宗哲は青龍門からの追っ手が無くなった事で、もう渡世人を続ける必要も無くなり、また黒門と争う気もなかったので、渡世からは足を洗ったが、江戸一の顔役となった黒門とは、今でも五分に話せる間柄。それを知る渡世人も多く、彼の元を何かと訪れる者も多い。そのように彼の経歴を知る者や、それとは知らないが彼を頼るものたちの相談に乗り、知人の医者などの代わりに診療したり、いろいろな頼みごとを引き受け、話が展開する。
今までの佐藤氏の作品と比較すると、それぞれの話は比較的主人公にとってはいい形で落着というものが多かった。彼の今までの作品には、良かれと行動しても、世の中自分の思うとおりになかなか行かないというものが、多かったようぬ思う。前シリーズの啓順などもそのパターンの作品だろう。しかし、このシリーズも第一巻は、少なくともそのような話はなかったように思う。佐藤氏の新しい境地の作品が出てくるのであろうか、今後の期待したい。
最後に、啓順と宗哲の比較などのために佐藤雅美のをインターネットで調べていたら「八州廻り桑山十兵衛」シリーズでの先月新作が出ていることを知った。タイトルは「 六地蔵河原の決闘―八州廻り桑山十兵衛 」となっている。これも今までの作品は全て読んでいる。また探して近々読んでみたいと考えている。
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