『魚との知恵比べ―魚の感覚と行動の科学』(川村軍蔵著・成山堂書店)だが、
ベルソーブックスという(社)日本水産学会が創立70周年(いつ?)の事業刊行する全100巻の一冊として刊行された本らしい。
タイトルを見ると釣り好きとして無視できない。著者の名前は聞いたことがある。前にも他の本を読んだことがあるのかな?? 釣りがうまくならないかと、以前からこういう本を買ったり借りてきて時々読む。七尾市には終戦間もない頃、末広恭雄という有名な魚の学者が和倉にあった水産試験場にいたことがあるので、彼の本も多い。私も、彼の本を一通り読んでいる。
この本を読んでみたが、思ったほど釣りですぐに利用できる話は多くはなかった。まだまだ研究段階のことが多いようだ。同じ科の魚であっても、色盲のものもあれば色を見分けられるもの、甘味を知覚するものもあればわからないものもあるとか、それぞれの種で異なっていたりすることもある。言ってみればチヌの生態を知りたいなら、チヌを調べるしかないような部分があるような感じを受けた。
それでも色々魚、イカ、タコ、蟹などの行動が科学されていて、非常に興味深い本ではあった。要約するのが下手なので、正確さに欠ける記述なるかもしれないが、畏れずに幾つかあげてみよう。
・シロギスなどは海底に棲む魚であるが、海底に20cmくらいの高さの網を敷き、狭めてからめとるだけでよく、たった20cmほどの網を乗り越えて逃げ出すことは無い。
・ブリ・ヒラマサ・チダイ・マダイなどは、網を障害物としては認識しているが、捕まっても学習効果が殆どないところから、危険物とは認識していないらしい。
おなじくイセエビなども、網にかかっても、そこから足(というか手)を使ってうまく逃れ出るのは非常に巧妙だが、何度も網にかかっても、危険なものと学習しないところから、やはり網を単なる障害物としてしか認識していないらしい。
・同じ種の魚類が最初のうち、よくつれるが、後の方になると、まだ魚が十分にいるのにもかかわらずつれなくなるのは、釣られやすい個体が先に釣られて、釣られにくい個体が残るからだ(マーティンの仮説の実証)
・ルアーなど疑似餌は酷似している必要がなく、何らかの特徴的な単純な形状が備わっていればよいらしい。しかしそれが何なのかは、まだどの魚においてもはっきりしていない。
・魚は水棲動物だが、味覚のほかにも嗅覚があり、味覚と嗅覚はそれぞれ異なる中枢神経で感じ取っているらしい。人間の方からは、魚がどちらで感じ取っているのかは、まだはっきりとはわからないが、役割はそれぞれ違うようだ。母川回帰などは嗅覚の方の記憶によるものらしい。
・魚の色に関する観察、例えば、水槽や漁礁が青色なら落ち着くらしいな。
・イカが吐く墨は、相手の目を晦ましたり嫌な成分で追い払うのではなく、逆にイカを捕獲しようとする魚はこの墨を好んで食べることから、身代わり・オトリとして用いているらしい。
・魚の聴覚を利用した漁業など
・集魚灯の明るさと魚の集魚の関係など
ほんとに沢山の研究内容がわかりやすく簡単に紹介されている。
私も、一度ブルーシートを釣り場に敷いてみたり、早朝の魚が水面で沸いている状態などを録音したりして、釣れ具合が変わるか実験してみようかと考えている。
やっぱり釣り愛好者必読の本です。