風野真知雄氏、近年になってからよく読むようになった作家だ。
最近好きな時代・歴史小説作家の1人である。
卜伝とは、無敗の剣聖として有名な塚原卜伝のこと。と言っても今まで私はこの人に関する本はほとんど読んでいない。
私は剣道を小学校1年から中学3年までやっていた。時代小説も好きだ。がその割には剣客もの小説はそれほど多く読んでいない。
塚原卜伝については、司馬遼太郎さん他の小説などで少し知っていたのと、将軍足利義輝の剣の師匠だったり、現在の石川県川北町出身の剣豪・草深甚四郎と勝負し、引き分け、試合後互いに弟子になりたいと、いって称えあった話があるのを知っているくらいだ。
近年、NHKで『塚原卜伝』をやっていたのを知っているが、テレビをここ十数年1日1時間以下程度しかみないので、この番組も全く見ていない。確か津本陽氏の『塚原卜伝十二番勝負』を原作としたドラマと記憶している(こちらも読んでいない)。
だが、この作品を読んでみて、非常に塚原卜伝に興味をもった。
この作品自体は、若かりし頃の塚原卜伝ではなく、もう60歳の坂を超えた後の卜伝を描いているのだが、タイトルにもなっているその飄々とした姿が、何とも言えず、いい味を出している。
卜伝については、詳しくは知らないが確か奥義本のような剣に関する著書は遺していないはず。
この小説は、著者が卜伝の「数々の伝承から着想を得て、軽やかに描いた等身大の人間・卜伝」伝ということのようだ。
読んでみて、同じ剣術家でも宮本武蔵や柳生家の剣術家などとは大違いの気がした。
無手勝流のエピソードなど、本当の話かどうか知らないが、彼の剣に対する晩年の考えを上手く表した話であることは間違いなかろう。悪くいえば、食えない爺(じじい)である。(笑)
日ノ本一の剣豪と名を高めながら、老年期に入ってからは、勝負を挑まれれば血気に逸らず、相手の弱点を見定めたり、弱点があるかの如く装ってみたり、使えるものは例え下品な真似でも何でも使って勝つ。立ち会うまでに出来るだけ有利な立場に立ってから立ち会う。何か孫子の兵法にも通じるものがあるようにも思う。
といってもおそらくこれは塚原卜伝の一面であろう。風野真知雄が描く塚原卜伝伝だ。
近々津本陽氏の『塚原卜伝十二番勝負』あたりを読んでみようかとも考えている。
オススメの一冊です。