早乙女貢氏(1926-2008)が書いた昭和45年初版の古い本だ。
タイトルだけ読むと奇兵隊が叛乱した明治2.3年の事件を扱った本のように思えるが、そうではない。
高杉晋作による奇兵隊の創立時から書かれている。
下級の中士に過ぎない高杉晋作が、初代総管として奇兵隊を訓練し(奇兵隊を中心とした諸隊も含めて)長州藩の戦力の中心となっていく中で、その力を背景に晋作自信権力を持ち、正義党として藩を動かしていく。
奇兵隊など諸隊の者は、上中士の武士によるいわば正兵でなく、農商工の民なども交えた隊だ。志ある者といえば聞こえはいいが、封建社会という階級社会の壁を破り、成り上がることを夢見た一癖も二癖もあるような連中が入隊してくる。
実際に戦ってみるも、上中士などからなる正兵の隊よりも戦い慣れして強い。そのうち正兵の隊をも侮蔑するような力を実際につけ、正兵との間で悶着なども起きる。
この本の第1章「草莽の臣」と第2章「第二奇兵隊」では、諸隊による内ゲバ的な話が出てくる。
些細な事件を煽って第二奇兵隊の指導権を把握し、私憤を晴らす立石孫一郎などの行動などは(この辺は司馬遼太郎氏の本などではあまり詳しく書かれていなかったのもあり)興味深く読ませえて頂いた。
第3章「小倉城炎上」では、第2次長州征伐の話と晋作の士などが述べられる。
また第1章から第3章まで、奇兵隊を通して伸し上がってきた赤根武人が、実際にはエリート主義の高杉とウマが合わず、一度は奇兵隊の実権を握るが破れて刑死される話なども出てくる。
第4章「世良修蔵の死」では、人材の払底などで、奥羽鎮撫総督参謀という肩書きを手にした世良修蔵が、彼を指揮者にした上層部の思惑も知らず、驕りたかぶり殺されるまでを描く。
第5章では、山縣狂介(有朋)の狡智な姿、決して表に立たず甘い汁だけ吸う、これという功績も無いのに昇進し続けてきた要領の良さなどが描かれる。
最後の第6章で、戊辰戦争も終わり、た奇兵隊を始めとした諸隊が、既に出世した者たちから、邪魔もの扱いされ、憤慨し叛乱するが、鎮定されて壊滅していく姿が描かれる。
早乙女貢氏は、ハルビン生まれだが、曽祖父は会津藩士で戊辰戦争も戦っている。そのためか貢氏は、徹底した反薩長的な視点で書かれた本が多いようだ。
私が好きな高杉晋作なども、ボロクソに書いている。
私は早乙女氏が書いた作品はこの本が確か初めてだが、他の本では坂本龍馬や西郷隆盛などもボロクソに書いているようだ。
私は高杉晋作ファンといっても、早乙女氏が指摘している様な彼の悪い点などを認めぬ訳ではない。私自身も疑問に思ったり彼の欠点として認めている点でもある。
会津出身の星亮一氏などはここまで、薩長憎し!と嫌悪顕に書いていないので、逆にこれだけズバズバ書いてあると、薩長側とは違った視点で読めて興味深い。
今後は他の本も読んでみたいと思う。