1978年に出た古い本だが、確かに背景となる状況は古いものを感じさせるが、その鋭い指摘は現代でも十分に参考になると思う。それで入手は困難かもしれないがオススメすることにした。
原題は、Almost Everyone’s Guide To Economics。直訳すれば「ほとんど全ての人のための経済学案内」となるが、鈴木哲太郎氏によると、経済学よりも、むしろ(書かれた当時の)現代経済学そのものに関わっていると思われたので、このような訳にしたという。案内も、入門の方が熟した良い訳だろうと思いそうしたとの事。
私は、某私大の元経済学徒だ(30年ほど前の話)。学生時代、自分でいうのもなんだが結構勉強した。4年間で確か1千冊ほど読んだ(勿論、学術書だけでなく、小説なども含めて)。
経済思想史などの本を参考に自己学習で知って好きになったのが、J.S.ミル、マックス・ヴェーバー、ジョン・K・ガルブレイスだ。この中で当時現役だったのが、ガルブレイス。
(当時の)現代経済批評も、ガルブレイスの論評が一番好きだった。
ゼミは日銀出身のケインズ学派寄りの先生で、生徒の意見もそちら寄りに誘導しようとするのが、当時の私には(師に対して失礼だったかもしれないが)面白くなかった。私はケインズ派もマネタリスト派も好きでなかった。
当時から経済成長=善という考えには疑問を抱いていた。おそらく、その辺が、ミルやガルブレイスを好きになった理由だろう(二人共、経済成長=善などとは考えていない)。
この本の巻末で、都留重人氏が、この本を非常にうまく要約しているので、それを参考にちょっと紹介したい。(この都留氏も私が学生の頃、サミュエルソンの定評の高かった経済学の教科書『経済学』の訳者として有名だった)
本書を貫いているガルブレイスの究極の関心は、西洋社会の現代病スタグフレーション(インフレーションと失業)にどう対処するかだ。
デフレで異次元緩和のインフレ政策をおこなっている今の日本とは全く反対ともいえる状況だが、読んでみると、優れた経済書というのは、時代に関係なく参考になるものだなと思った。
なぜインフレと失業が同時発生するかに関して、ガルブレイスはその根本原因を「市場の凋落」に求める。巨大法人企業が経済の重要部分を掌握してしまい、そこでは、価格が市場競争を通じて形成されるのではなく、企業自らそれを決定できる事態となる。
そうなると賃上げ要求があっても、それを認めるコストアップの部分を消費者に転嫁できるから、企業内では大した摩擦もなく、結局、賃金・物価の悪循環が起こる。
そこに見られる典型的な現象は、一部の集団が自らの所得を自分で決めるという事態だ。労働者は労働者で、組合が十分に強力であれば、ある限度内で自分の所得をコントロールできるし、巨大法人企業の役員も、自分たちの収入や会社の内部留保を自分たちで決めることができる。
ガルブレイスは、このような事態は、まさに市場機能の否定であって、同時に、インフレをもたらす主因だというのだ。
この「市場の凋落」という基礎的事実に経済学者が目をつぶり、それを商売の貴重なネタのごとく逆に大切にし、スタグフレーションに対する経済処方を、市場がまともに機能するものとして説くので、上手くいかなかったというのだ。
これに対するに世の経済学者は、貨幣政策、財政政策を、経済学者はあれこれ試みるが、なかなかスタグフレーションは抑制できずにいるのに対して、ガルブレイスは「包括的所得・価格政策(CIPP)」なるものを説く。
例えば、巨大法人企業の私的な価格設定に代えて公的な価格設定をするという。詳しく説明すると話は長くなるので、関心する人は調べてもらいたい。
インフレ抑制策などは、市場の桎梏から離れた巨大企業や大企業の組合員、公務員などに対しては影響が少ないが、逆に自営業者、農家、小工業、小規模サービス業者など個々で市場に臨んでいる物はいまだ市場に支配されており、ダメージ的影響が大きいというのだ。
これは状況が逆の現代も同じではないか。インフフル政策は、大企業や資産家が多く持つ土地や有価証券の価値を大きくあげはするが、そういうものはあまり上がらない。給料が上がるのは大企業ばかりで中小はほとんど上がらない。いい影響が出るのは、市場の漆黒から離れた存在に属する者だ。
市場に縛られる者は、物価はあがるのに実質賃金や所得は減る一方...
うーーん、やっぱ需要と供給が均衡して…という市場原理など、もうとっくに原理でなくなっているのに、これをお題目のごとく唱えている経済学者が問題か…..
ホント、この本の指摘が意味するところは、全く古くはない。いや現代においても読み返されるべき本だと思います。
オススメの一冊です。
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