今から30年程前(1989年〜1992.3年頃)、私はフランス革命に〜ナポレオンの時代の歴史に凝っていた。おそらく 50冊以上読んだと思うが、今でも我が家の本棚にその関係の本が30冊程ある。
当時フランス革命200周年ということもあり、そういった本が沢山売られており、私も触発されたのだ。
この小説の主人公ジョセフ・フーシェが出てくる小説も沢山読んだ。
彼は革命後に国民公会の議員となって、ロベスピェールらの恐怖時代も無事乗り越え、ナポレオン政権下で警視総監までなった人物だ。
時代の流れをよくみて、全く相反する勢力が入れ替わり立ち替わり登場する時代にあって、上手く体制側につくことで天寿を全うした(この時代フランスの歴史の舞台の中央で活躍していたものの中では稀有の存在)ために、“風見鶏”と渾名された、一般には狡猾な姿で描かれることが多い。
例えばフーシェが主人公としての小説としては、他にはツヴァイクの『ジョセフ・フーシェ』が有名だろう。
その本の表紙には、次のような内容紹介文が書かれている。
「「サン=クルーの風見」。フーシェにつけられた仇名である。フランス革命期にはもっとも徹底した教会破壊者にして急進的共産主義者。王制復古に際してはキリスト教を信ずることのきわめて篤い反動的な警務大臣。フーシェは、その辣腕をふるって、裏切り、変節を重ね、陰謀をめぐらし、この大変動期をたくみに泳ぎきる。」
しかしこの辻氏の小説は、他の小説や歴史書に出てくるフーシェのイメージとは全く違う姿で描かれる。
バスティーユ要塞の襲撃成功まで描かれており、若き日の正義感溢れるフーシェの青春像が血湧き肉躍る活劇の如く生き生きと描かれているのだ。
私は、第Ⅱ部がバスティーユ襲撃で終わり、これで完とは書かれていなかったので、続編が出てくるものと思っていたら、待てど暮らせど出ず、そういう作品だと思うしかなかった。
さらに何年かしたら辻氏も亡くなったので決定的だった。
最近、辻邦夫氏が生前、第Ⅲ部を原稿用紙にして約600枚書いていたことを知った。
なぜ中断したかは、謎のようだ。
今だに全集にさえ、その部分は載せらていないという。
(その後、新潮社から出た『フーシェ革命暦』には第Ⅲ部も収められているらしい)
しかし今までのフーシェ像とは全く違う姿だけに、かえってこの方が良かったかもしれない。
ロベスピェールの頃まで描くと、どうしても要領よく立ち回る狡猾な姿を書かざるを得ない。
爽やかなイメージのままのフーシェ像でこの小説は終わらせたのは結果的に正解だったように思う。
オススメの本です。
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