佐藤雅美氏は、現役の作家では一番好きかもしれない。
この本はその作家氏の人気シリーズ『物書同心居眠り紋蔵』の第13弾である。
主人公は、江戸南町奉行所に勤める物書同心の藤木紋蔵。
物書同心というのは、訴状の帳付けの際の書記役や審議のための類似事件判例の例繰方をする職のようだ。
彼は長年の勤務で奉行所内でも生き字引のように判例に精通しており、有能だが、職務中に怠慢からではないのだが居眠りしてしまう奇病があり、同僚らから「居眠り紋蔵」とあだ名を冠せられていた。
ただ最近は、このシリーズでは居眠りの話題は、トンと出なくなった(また一時期だが、町廻り同心に役替えになった事もあった)。
彼は判例についてなど職務に精通しているだけでなく、上司からも「下世話な事情」にも通じており、色々厄介な揉め事を解決する能力を高く評価され、持ち込まれる相談事が絶えないような人物という設定だ。
NHKでも一時期時代劇ドラマとして放映されたから、御存知の方も多かろう。
このシリーズは、毎巻だいたい、その巻を通して展開される事件と、目次に書かれた小タイトル内で展開する事件で構成されている。
巷で展開される事件は、油断も隙も無いしたたかな江戸庶民が起こす騒動が多く、それに紋蔵が色々関わり、時に彼自身が活躍し解決するという具合だ。
今巻で巻を通じて展開する話は、紋蔵の子・たえや勘太(養子)が通っている手習塾市川堂の男座の師匠・青野又五郎に関するもの。
青野氏は市川堂で雇われている師匠だが、ごく普通の事情で禄を失った青年浪人かと思われていたが、どうも何やら浅野家のお家事情がからんだ、もっと深い訳ありの人物で、本名は神崎清五郎と云う名で変名し江戸で身を隠していたらしい。
ある日紋蔵が市川堂に、安芸広島藩浅野家の上屋敷に奧祐筆として仕える奧林千賀子を同行してきたところ、青野を見るなり「あなたは死んだんじゃなかったのですか。どうして生きているんですか」と問われ、青野氏は脱兎の如く逃げ出した。
聞けば広島にいた時は、彼女と婚約し、結婚式間近に事故死した事になっていたという。
勿論この巻の終わりでは、この件は一応決着する事になる。
収録話だが「密通女の思う壺」「家督を捨てる女の決意」「真綿でくるんだ芋がくる」「にっと笑った女の生首」「御奉行に発止と女が礫を投げた」「牢で生まれ牢で育った七つの娘」「霊験あらたか若狭稲荷効能の絡繰」「手習塾市川堂乗っ取りの手口」の8話。
オススメの話は?と聞かれたら、どれも勧めたくなるようは逸品揃い。
やっぱ私には、佐藤雅美氏の作品は、読み逃せないなぁ。
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