<百字紹介文>
出光興産の創業者・出光佐三の語録だ。昨年の本屋大賞『海賊とよばれた男』で有名になった出光佐三氏だが、この本は今から30年ほど前、あの黒四ダム建設の苦闘を描いた名作『黒部の太陽』の木本正次氏の本である。
<詳しい紹介文>
一昨年、私は出光佐三をモデルとした、というかほぼ名前だけ変えた伝記に近い百田尚樹氏の
『海賊とよばれた男』を読んだ。昨年(2013年)の本屋大賞にも輝いたベストセラーであるから読んだ人も多かろう(私は本屋大賞になる前に読んでいるが)。
これは石原裕次郎主演で映画化されたあの『黒部の太陽』を書いた木本正次氏が書いた出光佐三の語録である。私は以前、木本氏の『黒部の太陽』を信濃毎日新聞社刊の本で読んだことがある。北アルプスの過酷な自然を相手に悪戦苦闘しながら黒四ダムの建設を進める感動の名作であった。
木本氏は、もともと毎日新聞社の記者だったが、ノンフィクション作家となった人物だそうだ。
『語録』といっても、ここに収められた言葉にまつわるエピソードが詳しく語られ「どのような場面において発せられたのかが」分かる、伝記といってもおかしくない作品となっている。
出光佐三氏の語録は、これが企業のトップの言葉かと思うような言葉で綴られている。
勿論、呆れてしまうという意味ではない。利益至上主義に走りやすい経営者でありながら「黄金の奴隷になるな」などという言葉を吐く人物。一度も「金を儲けよ」とはい言わず、「社員は家族である」との信念を貫き通した出光興産創業者であった。
実際、戦後まもない苦境期においても(会社側からは)一人も馘首(クビ)にしていない。
不当な圧力に規制・圧力に関しては(戦前・戦中・戦後をとわず)徹底的に抗して内外に敵を作りながらも、その誠実さをもって敵をも味方に変えてしまう人間力は、脱帽ものである。
彼の語録には、本当に実利的な言 葉はほとんど見当たらない。
まるで聖人かと思うような形而上的な、哲人的な言葉に満ちあふれ、また出光という会社で働くことで広く世の中に貢献することを目指した言葉、人間愛に関するような言葉が非常に多く見受けられる。
そういった言葉の幾つかピックアップしようかとも考えたが、やめておこう。
『海賊とよばれた男』(上・下)の紹介文で幾つか取り上げておいたので、興味のある人はそちらも参考にしてくれるといい。
こちらの語録の方は『海賊とよばれた男』と比べると、そこに描かれた彼の生涯は、それほど詳しくはないが、それでも、佐三の大体の生き様、考え方・哲学が分かり、この本だけでも佐三の人間の大きさが分かるであろう。
この本では、出光が石油元売り会社に指定されるところまで、少し詳しく書いている。
『海賊とよばれた男』では下巻に書かれていた、日章丸というタンカーを造る話、その日章丸によってイランからの原油の輸入の話、製油所を造る話などは、あとがきで簡単に述べられているだけだ。
木本氏のこの本の初版を出光佐三氏が亡くなった年(昭和56年3月)の2年後書いているとのこと。今から約30年前だ。『海賊とよばれた男』と比べ、戦後以降の話が少ないのはそのせいもあるのだろうか。
兎に角、出光佐三という人物は、もの凄い人物だ。
尊敬せずにはいられない人物、知れば知るほど傾倒していきそうな人物だ。
お薦めの一冊である。
またこちらを読んだら、是非とも『海賊とよばれた男』をも読んでもらいたい。
きっとさらに多くの感動を得ることであろう。
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