<百字紹介文>
『つくもがみ、貸します』の続編的本。『・・貸します』より、主役は一世代下がり、彼らの子供・十夜。兄弟のごとき十夜・市助・こゆりの3人が、どこか世間ずれした付喪神達と様々な騒動を繰り広げ、成長していく。
<詳しい紹介文>
ここでの先の記事も、畠中恵さんの本だったが、こちらも彼女の時代小説である。
まず付喪神(つくもがみ)についての説明をする。
付喪神とは、人間の使う器物が百年の時を経て妖と化し、力を得て、人間のように動いたり、しゃべったりするようになったものたちのことだ。
『つくもがみ貸します』の続編のようなシリーズ。『つくもがみ貸します』では、清次(主人公)とその姉のお虹(こう)の二人が深川仲町で営む出雲屋という古道具屋兼損料屋が舞台の話だった。
こちらでは、どういう訳か清次とお虹の2人が夫婦になっており、その二人の子(ただし後ほどわかるが拾い子)の十夜が主人公となっている。
そして十夜にはいつも一緒の仲間が二人いる。小間物屋『すおう屋』の市助と、料理屋『鶴屋』のこゆりである。
3人は、兄弟でないのに、出雲屋かすおう屋か鶴屋のどこかで、3人まとまって食事を摂ることが多い。さらに三人まとまって寝ることも多い。
3軒の店の親もそれを認めているのだ。
したがってどこの家も3人にとって己の家同然だが、マヌケをするとお小言も3組の親から降ってくる。
3人は、そういう訳で出雲屋の2階で寝ることもあり、まだ赤子の頃から、出雲屋にある百年以上経った器物の付喪神(つくもかみ)たちがしゃべるのを何度も聞いていた。したがって付喪神の怪異には全々驚かないばかりか、少年少女の年頃になってからは、いい遊び相手にならないかと考えていたようだ。
この本の巻頭の話「つくもがみ、あそぼうよ」で、ある日、十夜、市助、こゆりの3人が、出雲屋の付喪神に何とか遊んでもらおうとする。
付喪神の扱いが荒っぽい子供達によって、酷い目にあう事を怖れる付喪神たちは、子供達と遊ぶのをいやがった。が、子供たちの執拗な要求に、双六の付喪神そう六が、絵双六で子供達と勝負する提案を行う。
一旦その双六を遊び始めたら、上がるまで、止めることは出来ない決まり。ます目を進めて行くには、双六にいる付喪神に勝たなければ先に進めないルールであった。
十夜たちは、了解し、双六をはじめるが・・・・
第2話「つくもがみ、探します」
ある夜、出雲屋を大勢の雛人形の付喪神が現れた。勿論、それらの雛道具の妖は、出雲屋の付喪神とは違う。
十夜たちや出雲屋の付喪神たちが不思議に思い、どこから来たのか多勢の雛人形がやってきたのか調べてみた。すると蔵前の札差・大久屋(おおひさや)がそれらの集めていることがわかった。
利益どうのこうのという商売上の目的ではなく、そこには、若き日に実らせることができなかった大久屋の恋物語りがからんでいた。
昔大久屋が大事に思っていた人が集めていて(その後生活の糧にするため手放さざるを得なかった)雛人形を買い戻す行為をすることによって、
そのうち彼女の消息も分かるのではという切ない想いからであった・・・・
先日の記事(畠中恵さんの『ときぐする』)でも、江戸で巧妙な高利貸しが、そんな高利貸しにちょっと似合わないような、数少ない友との友情を守るための行動に走るという話が出てきたが、こちらでも江戸有数の金持ち衆・札差にちっと似合わぬような旦那を描いている。畠中さんは、人間を醜い面を抉り出すというというより、いい面をプラス思考で評価し、付き合っていくタイプの人かもしれない。
以下、第3話「つくもがみ、叶えます」、第4話「つくもがみ、家出します」、「つくもがみ、がんばるぞ」、終わりとなるが、今までのペースで其々の話を紹介は出来ない。
少し端折って書かせてもらう。
実は第1話で、十夜たち子供は、付喪神たちと、双六を始めているが、それは最終話まで続いていく。勿論、ますが変われば、付喪神と勝負する遊びの内容も変わる。
また第2話で出てきた札差・大久屋と十夜たちは、以後非常に親しくなる。
大久屋の想い人は、大久屋と別れた後、まもなく亡くなった事も分かった。
ただ大久屋との間に生まれた子供がいたことが分かり、大久屋は、自分の店に現在後継ぎもいないこともあり、その子供を何とか見つけようと、神仏にまでお願いして必死に探すが・・・・
その大久屋の身代を何とか狙おうとする親族も、幾人も出てきて、十夜、市助、こゆりの3人、さらには付喪神たちも巻き込み、次々と事件が巻き起こり、展開していく。
畠中恵さんのしゃばけシリーズとはまた一味違ったほっこり愉快な妖ワールドである。
お薦めの時代小説です。
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