<百字紹介文>
平易で語り口で好評の鎌田實氏のエッセイである。今回は旅の効用を説いている。癌などの病気や老いで障害がある人が、勇気を持って旅という夢を叶える事で、時には奇跡的な回復をも起こす事を実例で語る好本である。
<詳しい紹介文>
今ではマスコミにも時々登場する(皆さんも恐らく顔ぐらいは見たことがあるだろう)、ご存知鎌田實氏のエッセイ本だ。
イラクやチェルノブイリ、そして東日本大震災などの地へ医療の救援活動を行っている医者として、また医療に関わるエッセイストとして、有名だ。
今回は時には奇跡のようなことも起こす旅による効用を紹介する。
「鎌田實とハワイへ行こう」という旅行企画や長野県(鎌田實氏が院長など勤めたのは諏訪中央病院)の温泉地への旅行企画での実例などを紹介しながら、その効用を平易に語るという内容である。
この鎌田氏が行う旅行は、とかく外出に消極的になりがちな障害者を連れて行く旅である。介助者や医療関係者を(いざという時のために)連れて行く旅であり、バリアフリーの旅と謳いはすれど、行く旅先はバリアフリーとは限らない。
あくまで介助者などが付くからバリアフリーなのだ。実際は多くの問題もあろうが、それでも、そういう事を畏れず、勇気を出して旅に出ることの効用を説いている。
ここで紹介された人たちは、癌が転移してもはや手の施しようがないといわれた人、ダウン症の人、筋ジストロフィーの人、90歳を超え足腰の弱った要介護5の老人、子どもの時にかかったポリオで下半身不随の人など、本当にこういう人たちが果たして旅などまともにできるのだろうかと思える人たちばかりなのである。
しかし旅は楽しい。人は訪れたい旅先に夢を描き、それを叶える事によって、何事にも変えられないような満足を得る。どうやらそれによって本当に奇跡は起こるらしい。
色々な話が出てくるので、私が住む石川県の人の例を紹介した話を1つだけ簡単に記す。
石川県金沢市の毎田さんの病気は、筋ジストロフィー症。若い頃、彼女はそのため自暴自棄になり、何をする気も起こらず一日中ボーッとしていたという。
それを変えたのは、彼女が33歳の頃の、1人の友人との出会い。その友人が何かと外出に誘ってくれて、閉じこもりがちな彼女を変えたという。
その後、病院の介護士から誘われプールに行った時のこと。筋肉が弱い自分の足でも立て、体が浮いた。その後、その介護士も転勤でいなくなったが、彼女の気持ちに灯がついたようだ。彼女は電動車椅子を買い、一人で家の中を動き回るようになった。外にも出たい。
そんな彼女の気持ちを受け止める夫婦がいて、彼女をあちこちへ車で連れて行ってくれたらしい。あとで知った事だが、実は夫婦二人の間の仲はあまりよくなく、普段は会話も弾まなかったという。毎田さんがかすがいのように二人の間をつなぎとめた。
鎌田氏はいう。
人間っておもしろい。
支えられたり支えたり。
毎田さんは障害があって弱い。
弱さに力があるんだ。
弱さが人を支えることもある。
弱くても、障害があっても、年をとっても、やれることをやればいいのだ。
人に助けられながらでもいい。
それが、人の役に立つことがある。間違いない。
この外出のおかげで、毎田さんは遠出する自身がついたという。
今では「移送サービス」(全国介護タクシー協会)を使って、東京から金沢まで、など色々利用し積極的に行動しているようだ。
その毎田さんは、今では週に3回スイミングスクールに通うという。
「鎌田實とハワイへ行こう」で、ハワイの海で泳ぎたいとう夢を抱き、それを実現したあと、新たなる夢が次々と出てきた。
鎌田氏はいう。
まずは、夢をもつこと。
夢をもてば何かが変わる。
…今度は沖縄へダイビングに行くだろう。
どんな人間でも夢を持つ自由は与えられており、それを叶えるには勇気をもって第一歩を踏み出すことが重要という。
この本の中では、旅に出たい、旅先で○○をしたいという夢を持ち、勇気をもってそれを叶えた人が、奇跡のようなことを起こした例が色々紹介されている。
勇気をもってヨーロッパへの旅の夢を実現した93歳の女性が、要介護5から要介護3に改善した例や、癌があちこちに転移し、手術での除去が無理で癌ワクチン治療しかなかった人が、旅行の満足による免疫効果だろうか、癌が消えてしまった例など。
鎌田氏の、あの平易で、時に詩(ポエム)のような文体で、彼が感じ、思った事を綴った文章に、あなたはきっと共感を得ることでしょう。
多くの人に薦めたい一冊である!
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