<百字紹介文>
人気時代小説『みをつくし料理帖』シリーズ第7弾。今回は想い人との間が絶たれたショックで澪は味覚嗅覚不能になり、折角料理人一途に生きると決めたのに大ピンチに陥る。巻末では新たなそれも悲涙の別れが訪れる。
<詳しい紹介文>
大人気シリーズ『みをつくし料理帖』の第7弾である。
裏表紙の紹介文に「<悲涙>の第7弾!!」とある。
まず参考に前巻後半の話を少ししておこう。
澪が、諦めかけていた彼女の想い人・小松原こと小野寺数馬との結婚が夢でなくなる。小野寺の妹・早帆が澪のために動いたのだ。小野寺の母を説得し了解を得る。そして澪が某旗元の一旦養女となってから小野寺家へ輿入れする方向で動き出す。
しかし前巻巻末辺りから、澪は武家のしきたり等に染まぬ不安、料理の精進を続けられぬ不安、お世話になった多くの人の恩に報えない残念さ等から、小松原と添うことを再度諦め、料理に精進する道、それによって吉原という苦界に居るあさひ太夫こと野江を身請けする道を選び、小松原(小野寺数馬のことを以後・小松原と書く)にその旨を告げる。
小松原は、了承。後は、全て自分に任せて、澪は何もしなくてもいいと告げ去る。
第1話「冬の雲雀―滋味重湯」
小松原の工作が功を奏したのだろう。縁談は、おじゃんになる。由緒ある旗本からの縁談話が、小松原の上司から彼に持ちかけられ、澪との縁談を断るということになったのだ。勿論、陰で小松原が動いていることは間違いない。小野寺家では、全く彼の工作に気づかず、平身低頭して澪や「つる屋」の面々に謝った。
澪は小松原の工作について他人に何も語らなかった。それだけに種市など「つる屋」の面々は小野寺数馬のことを悪し様に言い、澪は汚れ役を買って出た小松原を思い辛くなる・・・・
第2話「忘れ貝―牡蠣の宝船」
澪は「つる屋」に復帰する。日高昆布を船の形に形どったものに、熱く焼いた牡蠣を載せ、酒や柚子の絞り汁をかけた「牡蠣の宝船」が大当たりし、また江戸中で真似をされるまでになる。
そんなある日、花嫁御寮の行列が「つる屋」の前を通り過ぎた。店に来た武士の話から小野寺家への嫁の輿入れの話を聞き、澪は先ほど見た行列を追いかけ、それが小松原家へ入るのを見届け愕然とする。
覚悟していたことではあるが、澪は一縷の望みの可能性も考えていただけに大きなショックを受ける。
第3話「一陽来復―鯛の福探し」
前話にあったように澪は大きなショックを受けたことから、味覚・臭覚が全く無くなってしまう。医者の源斉の診断では、特に治療はなく、日にち薬だと言われる。
味覚・嗅覚が利かないようでは、味見できず美味しい料理が出来ない。「つる屋」店主は、吉原遊郭・翁屋から又次を2ヶ月間貸して欲しいと頼み、彼の助太刀を得て店を続けるが・・・・
この第3話まで読んでも、悲涙を流すという話は無かった。
周囲の人を思いやり応えられずに悩む澪の姿や、これでもかこれでもかと重なる苦難に耐える姿は、それ相応に読み応えがあったが、悲涙までは流さなかった。
第4話「夏天の虹―哀し柚べし」に入っても、翁屋から又次を借りた期限2ヶ月が迫り、少しウルウルくる場面もあったが、巻末が迫っても悲涙が出てこない。
‘あれっ?このまま、又次との別れ程度の話で御終いになるのかな’と思ったら、最後の最後でそれこそクライマックスが訪れた。
又次との別れには違いないが、その「程度」が予想を越えた。本当の別れがやってくる。
泣けました。ホント泣けました。
辛い過去を持つ強面の又次さんも、普通の人間らしい喜びや将来を折角見いだせるようになったのに・・・・
これ以上あれこれ内容を書くと、想像がつきネタバレになりそうなのでやめておく。
ところで最近、著者・髙田郁さんのことを書いた記事をネットで見ていたら、彼女は昔山本周五郎の本を読みあさっていたようだ。それを読んで、私は、ああ、やっぱりと思った。このシリーズの最初の頃の紹介記事で、私は山本周五郎を想起したような事を書いた記憶がある。
藤沢周平でも、最近泣きの作品で有名な山本一力でもなく、山本周五郎を感じさせるのである。
周五郎氏のような本をどんどん書いて欲しいと思う。
今回もいいセリフ色々あって、紹介したいところだが、もうかなり字数を費やしたので、やめておく。
著者のあとがきだと、今までは年に2回刊行していたこのシリーズも、資料収集などのため1年ほど暫く休むとのこと。
ファンとしては(今では完全にファンを断言したい)、一年くらい待ちます。
髙田郁さんには、じっくり勉強して素晴らしい構想を練って、次作以降もいい小説を書いて欲しいと思う。
時代小説ファン、泣ける本を読みたい人にお薦めしたいシリーズである。
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