<百字紹介文>
『甲子夜話』の著者として有名な平戸藩元藩主・松浦静山の娘で31歳で未婚の松浦静湖を主人公とした時代小説第2弾。好奇心旺盛で巷の事件に何かと顔を突っこむ彼女が今回は約百年前の忠臣蔵に関わる謎解きに挑戦!
<詳しい紹介文>
『甲子夜話』の著者としてのみならず剣の達人としても有名な平戸藩元藩主・松浦静山。その娘で美貌であるにもかかわらず縁談に恵まれず、31歳で未婚の松浦静湖がこの小説の主人公である。
彼女は、深窓のお嬢さんというタイプとは異なり、巷間に護衛を一人つけただけで出かける快活で颯爽な女性。行きつけの飲屋もあり、何とそこはオカマの店。感受性豊かで好奇心旺盛だ。
作法に拘ったり体裁など繕うタイプではなく、知らないことは知らないとあけっぴろげでざっくばらん。そんな彼女が、31歳になったのを期に、何と31文字の和歌を習い始めた。
しかし彼女が作る歌は、古今詠まれた事が無いような内容で、歌の師匠(坊城定俊)も呆れるばかり。
ちびまる子のお爺ちゃん・さくら友蔵が作る歌より物凄いかもしれない(笑)。
いつものように粗筋を書く。
彼女は好奇心が旺盛だけに、すぐ事件などに顔を突っ込む癖がある。
今回の話の中心となる謎解きも、父親静山のもとを訪れた伊予松山藩の用人が、赤穂浪士の堀部安兵衛が残した書き付けの謎を解いて欲しいと訪れたのを、静湖姫が自らを売り込み仕事として請け負ったのだ。
この時代から百数十年前の赤穂浪士の討ち入りがあった時、伊予松山藩の江戸屋敷は四十七人の浪士を4つに分けて預かる場所の1つとされた。堀部安兵衛もその屋敷で預かった。そして最近堀部の真筆と思われる謎の書き付けが見つかったというのだ。
そこには驚愕の事実が記されていた。赤穂浪士が討ち入りをし、吉良上野介を発見した時には、彼は既に殺されて炭俵に入れられていたのだという。それを公にしては四十七士の討入りが無駄となるので、大石内蔵助は仕方なく吉良の首を落とし、首級をあげたかの如く、その後、彼らは泉岳寺に引き上げたのだという。
そんな赤穂浪士に関わる事件の謎を請け負った静湖姫だが、実はこの江戸時代で一番有名な事件に関して彼女はまるで知らない。護衛の岡田や、行きつけの飲屋の店主でおかまの繁蔵を手始めに赤穂浪士についての知識を仕入れ始め、そこで赤穂浪士オタクともいうべき横山町の油問屋の大店<東京屋>の若旦那・道右衛門を紹介してもらう。
赤穂浪士を知るには芝居が一番と、ちょうどその時、赤穂浪士の芝居をやっていた両国橋西詰の中村新座に彼と一緒に出かける。
偶然そこに戯作者・乙斗努津恋(おっとどっこい)も居合わせ、さらに知識を仕入れるが、そんな芝居の幕引きが異常だった。
何と炭俵に入った吉良上野介が、静湖が調べることになったあの書き付けと同じく、内蔵助が見つけた時、既に死んでいたのだ。
この事件と書き付け内容の類似は、単なる偶然か?それとも繋がりはあるのか?
探索の期限は、2月4日までのたった数日間。芝居小屋での殺人事件が、あの書き付けの内容と繋がっている事もわかり、さらなる調査と忙しく江戸の巷を歩き回る・・・・
ところで私は歴史小説・時代小説が好きだが、実は赤穂浪士を題材にした小説は読んだことがない。よって私も静湖姫ほどではないが、赤穂浪士についてはそれほど詳しくない。NHK大河ドラマなどで何度か見た程度の知識だ。
『仮名手本忠臣蔵』のタイトルが、いろは47文字と四十七士をかけたものであり、忠臣蔵は「忠臣の内蔵助」という意味であることも初めて知った。
またこの小説によると、浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけた理由などは実のところはっきりしていないのだという。内匠頭は斬りつけた際「この間の遺恨、覚えたるか」など叫んだことが記録されているが、事件後一切それについて何も語らず、その日のうちに切腹させられたので今もって真相不明らしい。
四十七士の一人である間十次郎の謎の覚書があるなども初めて知った。
といってもこの小説に書かれた事柄も、どこまでホントの話かさえ、忠臣蔵について詳しくないので見当さえつかない。
謎が色々あると分かっただけに逆に少し興味が出てきた。
この小説の中で明かされた真相は(ネタバレとなるので書けないが)、この小説家の想像の産物だが、もし先ほど挙げた謎が色々あるなら可能性がない訳ではない。
謎が多いだけにその分、空想自由な訳である。この小説にあるように‘お上’も関わった事件なのかもしれない。
忠臣蔵を題材にした小説もそのうち読んでみたい。
この小説は、そんな忠臣蔵の謎を色々と紹介してくれ、著者なりに意外な真相の可能性を追求してフィクションにしているので非常に面白かった。
31歳になって急にもてだした彼女の恋の行方も楽しみだ。
次巻が楽しみである。
お薦めの時代小説です。
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