<百字紹介文>
四方を海に囲まれた島国でありながら海への関心がイマイチ薄い日本。今迄の歴史では海からの視点が欠けものが多々あったが、この本は海から日本史を見直している。新たな視野で知見を増やし将来に役立ててはいかが。
<詳しい紹介文>
著者は函館で生まれ、小さい時から海に関心を持ち、外国船の船乗りなどに憧れたそうだ。しかし結局は出版社に勤め、編集などの仕事を経て物書きになったようだ。
私も日本海側有数の天然の良港(貿易港)・七尾(石川県能登)に生まれ育ち、そのせいか著者と同様子供の頃から海に関心が強く、子供の頃は港で貨物船の入港接岸・離岸出航の作業を何時間も飽きずにながめるのが好きだった。
そして大きくなったらやはり外国船の船乗りになりたかったが、結局は兄や親の勧めなどで進学し、船乗りとは違う道を歩んでしまった。とはいえこの本の著者と同様、海への関心は消えず、その後もずっと色々な思いを込めて海をみつめ生きてきた。
図書館の文庫本コーナーでこの本のタイトル『海の日本史』を目にしてすぐ読みたいと思った。
「「海国日本」といわれながら、海へ関心を抱いている人はあまり多くない」と著者はあとがきで書いているが、私も同感だ。
中学校の歴史の時間、林子平の『海国兵談』の言葉「およそ日本橋よりして欧羅巴に至る、その間一水路のみ」を聞いて、私は何かビビーーーッと強い電気ショックのような衝撃を受けたのを覚えている。
歴史の授業でその意義など教えながらも、21世紀になった現在でもその意義を重く受け止める日本人は少ないのではなかろうか。多くの日本人が衝撃を受けていたなら、日本はもっと国際化し明治時代以降もっと海洋国家になっても不思議はなかったと思う。
日本にはまるで武士と農民しかいなかったかのような偏りの多い従来の日本史に対して、現実には海で暮らす漁師もいたし、廻船業などに従事する船乗り、また場合によっては海賊など、多くの海で生きるものたちが居た。
考えようによっては、海は田畑の収穫以上に豊かな恵みをもたらす場で、古くから多くの日本人が海を相手に生きてきた訳である。
「近年になって歴史の見直しが進み、歴史学者の中には、海から歴史をみることの重要性を指摘する人が増えてきた」と書いてあるが当然の事である。
この本では、まだ文字も生まれるずっと前の7,8千年前の縄文時代から、明治時代頃までの日本を、海との関わりから、当時の生活を偲ばせる遺物や記録、エピソード、海に関わる歴史的事件など様々な事柄を紹介し、日本人と海の関係を見ていこうという本である。
とは言っても、歴史家が書いた本とは違い、新たな視点による学術的な成果を示そうなどといった学者的鼻息の荒さや固苦しさはなく、平易に楽しく読める本となっている。
興味をもった方は、この本を振り出しにして、さらに色々読んでいけばいいと思う。
今回は本書の内容自体にはあまり触れなかったが、内容がとにかく多方面に亘り書かれているので、やめにした。ご了承願いたい。
私は、海(の外)への視点が、外向的(さらには→外交的)なものの考えの基点であり、人間の活動を大きくする契機だと昔から思っている。
それだけにこの本は、長期にわたる経済不況で閉塞感を抱き、内向きになりがちな日本人に、あらためて海に目を向けてもらう契機にしてもらうためにも薦めたい一冊です。
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