『秘帖・源氏物語 翁』(夢枕獏著・角川書店)を読了した
<百字紹介文>
『源氏物語』の光源氏こと光の君が、彼の妻・葵の上に憑依した妖しいものを祓おうと僧などに調伏の修法を頼むが上手くいかず、外法の陰陽師・蘆屋道満とコンビを組んで相手を探り出し、取り憑いたものを祓除する話。
<詳しい紹介文>
源氏物語には全く興味ない。気色悪いから、世界的古典であろうと、あんな文学とても読む気はしない。
私には源氏物語の世界は、過去にあった歴史でも、現在主流の日本文化を形作ってきた歴史とは懸け離れた世界のように思う。公家が武力どころか、ろくすっぽ警察力も無いのに民衆を支配し、庶民には想像もつかない贅沢三昧の王朝文化を現出させた訳だ。武家に倒されて当然の体制であったと思う。
恋に明け暮れる浮世ばなれしたセレブ気分を小説の中で味わいたい女性などに好まれるのかもしれないが、私にはとても読む気のしない文学だ。
ではなぜこの本を読む気になったか?
私が好きな作家・夢枕獏氏が書いているからだ。帯紙にはこう書いてある「『陰陽師』の夢枕が描く いまだかつてない源氏物語! 美貌の貴公子・光源氏と稀代の陰陽師・蘆屋道満が謎に挑む。」とある。
どうも女々しい源氏物語を翻訳してアレンジしたような本とは違うようだ、その上、あの安倍晴明のライバル(?)の蘆屋道満(あしや・どうまん)が光源氏とともに主役級らしい。
さらに「あとがき」を読んでみると、夢枕氏は源氏物語を書くことを編集者に薦められ、その気になり参考に『源氏物語』を読もうとしたが全巻読むことはギブアップしたらしい。
ではどうやってこの本を書いたかというと、大和和紀さんの『あさきゆめみし』という『源氏物語』の世界を描いたマンガや入門書で済まし、原作にはあまり拘(こだわ)らずに夢枕さんの世界を描いたようだ。
だから帯紙にあったコピー文のように「『陰陽師』の夢枕が描く」となるのだろう。読んでいて、頭の中で蘆屋道満の姿と安倍晴明の姿が時々ダブったりした。相手の本性を推理し、その出方を予想しながら対処法をテキパキと考え打つやり方など、夢枕さんの描く晴明に似ている気がした。
よってこの中に出てくる蘆屋道満は貧乏たらしい姿の老人と記してはいるが、光源氏(この本の中では「光の君」)の横に並んでいても、彼以上にどこか格好いい!
さて遅くなったが内容の紹介に入っていこう。いつものように前段の粗筋を書く。
先代の帝の子で当代一の貴公子・光の君が22歳の時、妻の葵の上の身に、妖しいものが取り憑(つ)いた。光の君は憑依したものを払うため、屋敷に普段は内裏清涼殿に宿直(とのい)して天皇の安泰を祈る祈祷僧、つまり験力のある僧を呼んで修法をさせた。
だがどうでもいいような小物の憑きものは追い払うことは出来ても、妻を真実苦悶させる肝心の何者かは取り憑いたままのようだった。
事のおこりは葵の上が侍女らの勧めで、賀茂祭りの本祭りの3日前に行われる、斎王代禊(さいおうだいみそぎ)の儀の行列(光の君も供奉する一行の一員)を見に行くために車で出かけた事に始まる。
そこで六条御息所(光の君の以前の女)の車と前列争いをし、六条御息所の車を動けなくし恥をかかせた事件があった。その後、葵の上がたちの悪い生霊にでも取り憑かれたかのように寝込んでしまったのだ。
高名な修法僧でも手に負えぬ相手と分った光の君は、「外道の坊主でもよい、外道の陰陽師でもよい。験力優れた者を探してくるのじゃ」と従者の惟光に伝える。
それに応えて惟光が連れてきた何人目かの男が蘆屋道満であった。
安倍晴明のことや夢枕氏の陰陽師シリーズを読んでいる方ならご存知と思うが、蘆屋道満は、宮中陰陽寮に属する晴明とは違い民間の陰陽師で、しかしながら法力は晴明と匹敵する男である。よって宮中で術比べしたり、色々張り合う機会も多く、いわばライバル。
ただし夢枕氏の本の中では、刺々しい敵対関係ではなく、仕方なく験力比べをすることもあるが、同じ陰陽師としてお互い気心の知れた友人といった感じで描かれている。
原作の光源氏は、どういう人物か知らぬが、この本に出てくる光の君は、普通の人には見えぬもののけも見える。女に非常に持て、悪くいえばとっかえひっかえ女を変えてきた男。
何事にもクールで、(たとえ化物に凄まれようとも)ものに驚くということは殆ど無く、さらには女を変えても前の女に悪いと思うようなところは無い(悪く言えば薄情で)男として描かれている。夢枕氏の好きなハードボイルドな性向が入っているように思えた。
また読みながら私は『ダ・ヴィンチ・コード』を思い浮かべてしまった。歴史に隠されたキリスト教などの秘密の謎解きも描いて見せたあの小説のスタイルにもどこか似ているような気がした。
太秦寺(うずまさでら)が、葵の上に憑依したものの謎を解く鍵(キー)として出てくるのだが、その際、蘆屋道満や太秦寺・蜂岡寺の座主・忍海と隠祝(こもはふり)らの間で語られる太秦寺の秘密に、ええっー!!と驚かされるのだ。
意外な内容だが、自分も知っている事実に根ざした話もあり、なるほどとも思ってしまう内容。どこまで本当の話なのだろうかと読み終わった今でも気になる。興味が沸いた。一度自分でも調べてみたい。
謎解きといえば、この本には葵の上に憑依した鬼が語る2つの謎々が出てくる。
1つは、「地の底の迷宮の奥にある暗闇で、獣の首をした王が、黄金の盃で黄金の酒を飲みながら哭(な)いている――これ、なーんだ。」
もう一つは「固き結び目ほどけぬと、中で哀れな王が泣いている。この結び目ほどくのだーれ」である。
ただしギリシャ神話に出てくるスフィンクスが出す児戯めいた謎かけとは違い意味深長で複雑だ。古今東西の宗教や伝説に詳しくないと解けないような謎々だから、読者は解いてやろうなどと考えないほうがいい。
著者の夢枕氏は自画自賛して傑作だという。
著者の中でも面白い一冊であることには違いない。
逆にこの小説中の『源氏物語』のアレンジ度は如何ほどかな?などと思い読むと落胆する事があるかも。
お薦めの一冊です。


能登をこよなく愛する好奇心旺盛な40代後半のブルーカラーの源さんです。趣味の1つ読書(本の紹介・書評中心)のブログです。年間150冊前後読みます。2005年からこのブログを始め、既に1千冊以上を紹介しています。
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