『忍びの国』(和田竜著・小学館)を読了した
<百字紹介文>
『のぼうの城』『小太郎の左腕』で人気を博した和田竜氏が「天正伊賀の乱」を背景に、伊賀攻略を目指す織田信雄率いる伊勢軍と伊賀忍び軍団の戦いを、強烈な個性を持ったキャラクターを配してヴィヴィッドに描く。
<詳しい紹介文>
2年ほど前『のぼうの城』を読んでから、若いが力量のある作家だなあと気に入り、和田竜さんの本を読むようになった。
といっても他は『小太郎の左腕』とこの本で、3冊読んだだけだ。
遅筆の作家なのだろうか、インターネットで調べても(H23年12月6日現在)他の作品は見当たらない。
でも3冊だけでも随分存在感のある作家だと思う。
巻末に今年亡くなった児玉清氏の解説をしている。絶賛ともいえる評で、次回作が待ち遠しいというような言葉まで最後にそえてあったが、私も同感である。
舞台は戦国時代、天正4年(1576)から始まる。織田信長の次男・信雄(のぶかつ)が、北畠具教(とものり)(彼の娘を信雄がもらい養子に入ったから一応義父にあたる)を、家臣である日置大膳(へきだいぜん)、長野左京亮、柘植三郎左衛門の3名だけ連れ、訪問し暗殺するシーンからである。
大膳と左京亮はかつて北畠家の重臣として信長軍とも激闘を繰り広げ、信長の軍勢を大いに悩ませた豪将であった。時の経過は旧臣をも織田方につかせてしまい、具教は殺され、伊勢国は完全に織田方の手に落ちる。
隣国の小国・伊賀も周囲を織田方に囲まれ、いつ侵攻されてもおかしくない状況になる。伊賀は現在なら一つの市域でもおかしくない面積の小国で、66人もの地侍が乱立していた。いわば群雄割拠の状態である。
ただ伊賀をまとめる大名がいないので、伊賀全体に関しての話し合いの場として平楽寺があり、必要な時には各地侍を代表した十二家評定衆がそこで話し合いをもった。そこでの決定事項は、全ての地侍とその下人が従う義務があった。
十二家評定衆らは、今回の事件が織田信雄の命令であるとはいえ、伊勢一の豪勇・日置大膳が己が意に染まぬ旧主殺しをやった等の理由から、たとえ信雄が伊賀攻めの挙に出ても、大膳は伊賀攻めに加わらぬと読む。
さらには大膳さえ伊賀攻略戦に加わらねば、信雄の伊勢軍が侵攻してこようが勝てると読む。逆に今こそ伊賀忍者が諸国の大名から評価を得る絶好のチャンスと考える。
その企みから評定衆の百地三太夫や下山甲斐に術をかけられた、伊賀一の腕前の忍者・無門や同じく指折りの伊賀忍者・下山平兵衛らは、本人も気付かぬうちに信雄に伊賀を攻め入る契機をてしまう。
伊勢方面の三方から織田軍に侵攻された伊賀方は、当初窮地に追い込まれる。それは伊賀人(というか伊賀忍者)の性癖は、たとえ親方からの指示でも、お金をもらえなければ戦いたくないという現実主義があるからだ。
十二家評定衆の決定にも逆らい、多くの(地侍配下の忍者などの)下人などが戦いが始まる前から続々と逃亡し、防備が手薄となる。その上十二家評定衆は、戦いには大膳は加わらぬと予想していたが、伊賀側の企みに気付いた大膳は、考えを変えこの戦いすすんで参加。
初戦から窮地に追い込まれた伊賀は・・・・
児玉清氏の評にもあるが、キャラクターが傑出していると思う。強烈な個性を出しながら活々と描かれている。
主人公の無門、その妻お国、織田信雄、北畠具教、日置大膳、長野左京亮、柘植三郎左衛門、百地三太夫、下山甲斐、下山平兵衛、そして後の石川五右衛門こと若き日の伊賀忍者・文吾など。
実在の歴史人物も多々登場するが、史実を添えて描く姿に終わらず、和田竜氏の筆力によってそれぞれの生き方を主張するかのようにビビッドに描かれていた。例えるなら名優が読みこんだ脚本をもとに、時にはアドリブなども用いたり名優本人の個性も活かしながら、迫真の演技をみせるとでもいうような感じだ。
裏表紙の紹介にもあったが、「破天荒な人物、スリリングな謀略、迫力の戦闘」シーンの描写も見事である。
忍者小説だけに彼らの技に(特に主人公・無門の技に)超人的ものが飛び出す。普通こういう小説では、ヒーローの技などが余りにも超人的過ぎると、興醒めしてしまう時があるが、今回は非常に楽しく最後まで読めた。
また無門は伊賀忍者の中でも無双の強さなのに、普段は無類の怠け者である上に、女房のお国には、責められると頭が上がらないといった設定も、何ともいえぬおかしみを感じた。
少し気になったのは(キャラクターに関してではないが)戦いの描写で、いくら伊賀国が小さい国とはいえ、たった1日の戦いの間にあちこち速い移動を行っている点である。実際には数キロから十数キロ離れているはずだが、短い時間で救援に赴いたりしている点、ちょっと気になった(ちょっと些細な点に拘り過ぎてしまったかな)。
忍者小説をはじめとした優れた娯楽時代小説を書いていた男性作家が何人も亡くなっただけに、私は最近ちょっと残念な気がしていた。
しかし和田氏の作品に接し(まだ作品数は少ないが)、そのストーリーの構想力とエンターテイメント性に、気鋭の新星という言葉も通り越した、大家あるいは実力者のような存在感を感じる。
私より7歳も年下だが、凄い作家が出てきてくれた。嬉しい!
忍者小説ファン、娯楽時代小説ファン必読の一冊です。

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