『湯屋守り源三郎捕物控』の第5弾である。このシリーズは第1弾を昨年7月から読み始め、あと同シリーズの(2011年5月時点での)既刊は第6弾にあたる『本所ゆうれい橋』1冊のみ。これも前の話を忘れないうちに読もうと思っている。
登場人物の紹介はもう何度かしているので、今回は省く。早速あらすじを書く。
今回は、お香さんの元亭主・両国広小路の鋳物問屋の赤松吾兵衛が大川に突き殺されて捨てられ、水死体で浮かぶところから話が始まる。
これ以前の巻では、お香さんは美人の元辰巳芸者で1,2番目の売れっ娘だったという話程度しか前歴は出てこなかった。
この事件を契機に彼女は、自分が両親に早く死に別れ、兄弟姉妹が別々の親戚に引き取られ、苦労して人気芸者になった話や、吾兵衛に落籍(ひか)され大店の若おかみとなるが、姑や小姑にいじめられ短期間で離縁された身の上話があかす。
その後も、大川に5人もの惨殺された水死体があがる。犠牲者はいずれも大店などの主人や主など裕福な者達である上に、脇下にムジナらしき小さな絵を刺青にしたものが見つかり、どれも同じ組織による犯行と見られた。
6人ともどうやら同じ組織に殺されたことで、町奉行所の威信が低下。この小説の主人公(湯屋の用心棒・空木源三郎(通称:源さん))の実兄でもある南町奉行・筒見正則は汚名挽回のため直接陣頭指揮に乗り出す。いわば奉行所総動員の大江戸大捜査線。
勿論、源三郎も兄から密命を受けて、兄を助けるべくおけら長屋の仲間をも動員して捜査に乗り出す。
しかし捜査が始まって間もなく、源三郎の素性を知り彼とも親しい南町奉行所定町廻り同心・黒米徹之進の様子が変になる。黒米徹之進は、麻布のむじな屋敷という四層の屋根を持つ屋敷の美女の主人の妖しい魅力の虜となり・…。
今回は、黒米徹之進が早い段階で、むじな屋敷の女主の色香やアヘンで役立たずになる。それで、代わってというか、南町奉行所の筆頭与力の大井勘右衛門の出番が増える。また前編の第4弾から登場した、黒米徹之進に付き添って定町廻りの役職を見習い中の同心・山木浩太郎も活躍する。
今回のアヘンによる大事件となる端緒だが、元々はお香の元亭主など大店の主など金持ちによる「香道における聞香(もんこう)」であった。当初は香木として伽羅などの公認されたものを使って聞香をしていたのが、飽きてきて、密輸でしか入手できない麝香や、さらにはアヘンまで手を出してしまったのだ。そして・…。
犯罪というものは、飽くことなき欲望に根ざすことが多いことを、この一風代わった聞香という金持ちたちの趣味から起こった事件として描いている点も、設定に無理なく上手いと思った。
またこのシリーズの毎度のことでもあるが、他人に自分の薀蓄を疲労するのが好きな自称講釈師の関亭万馬に、「香道における聞香」などを語らせるのも、下手な小説家だと著者自身の(小説には不似合いな)解説的説明になりがちな箇所を、登場人物に無理なくさせている。やはりこれまた上手い!
そのせいか最近、どうもこの小説家に嵌りそうな感じがしている。
ところで時代小説を読むようになってから狸穴(まみあな)という地名を時々目にするようになった。今回も、相手の本丸ともいえる‘むじな屋敷’があるのは、麻布狸穴である。
この狸穴は、平岩弓枝氏の『御宿かわせみ』に方月庵がある地として狸穴が出てくるし、最近読んだ本では、諸田玲子さんの『狸穴あいあい坂』という作品などもある。
東京にいる間、麻布近くの都立中央図書館などへよく通ったが、ついぞそういう地名には気付かなかった。今度上京する機会があり時間的余裕があったら一度実際に行ってみたい気がする。
最後はどうでもいい感想を書いてしまった。失礼!
時代小説ファンにお薦めの一冊です。
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