『自分とは何か-「自我の社会学」入門』(船津衛著・恒星社厚生閣)を読了した
この本は、書いた書評に応じて献本がもらえる書評コミュニティサイト「本が好き!」で頂いた本だ。これで13冊目になる。
今回は「自我の社会学」に関する本だ。学生時代、大学の経済学科にいたが、教養課程に限らず社会学を色々とやっていたので興味があった。またこの本は自我がテーマのために心理学も関わるが、心理学も好きで昔から色々と読む。
そういう訳で献本の抽選に応じたら当選し頂いた本である。
現代は、時の潮流が非常に激しく、よってまた様態の変化も激しい。10年前の自分と比べても今の自分の状況はとても予想がつかないし、今話題の福島第一原子力発電所の問題ではないが、明日の状況さえ予断を許さない多難な時代になってきた。
こういう時代においては、知識人に限らず全ての人間が、程度の違いは多少あれ、自我というものに思い悩むのではなかろうか。
自分とは何ものであろうか。時間を後戻りは出来ぬが、歩んできた道を振り返り、自分が何を経験し何を経験せずにきたか、現に如何なる人間でこれから如何に生きることが今の自分によりよき生き方なのか色々考え悩んでしまう。その際、沈思しじっと見据えるのが自我であろう。
著者はこの分野では大家であるとか。入門書といっても時に権威をひけらかすような衒学的な書き方だったり、小難しい場合もあるが、この本の内容に関しては難しい箇所は私としては一切なかった。
全体は16章からなり、それぞれの章は、テーマに関する代表的な学者などの考えを非常に平易は言葉や図で概説している。各章の終わりにQ&Aのコーナーを設けている。その章のテーマの問題点をQ(問いという形にまとめ)、それに応える形の文章を設けることによって、Q&Aが各章の纏めとなっており、復習・再確認出来るようになっている。学生にとっては非常に親切な本である。
参考にそれぞれの章のタイトルを目次を参考に列挙しよう。
第1章 「自我とは何か」-「自我の社会学」の課題
第2章 「鏡に映った自我」-鏡としての他者
第3章 自己と他者-自我の社会性
第4章 「他者」の2つのタイプ-「親密な他者」と「疎遠な他者」
第5章 自我の形成-「役割取得」
第6章 「ホモ・ソシオロジクス」-受身的、消極的「人間像」
第7章 相違なる他者の期待-「役割コンフリクト」
第8章 レッテル貼りされる自我-「ラベリング」
第9章 表現する自我/表現される自我
第10章 変容する自我-ケータイする自分、ネット上の自分
第11章 見せる自我/見られる自我-「外見」による自己表現
第12章 演じる自我/装う自我-「印象操作」
第13章 他者の期待から離れる自我-「役割距離」
第14章 新しい自我の形成-「役割形成」
第15章 物語る自我-自我の構成
第16章 創発的に内省する自我-「自我の社会学」の展開
入門書・概説書だけに、内容理解の上で重要なキーワードやターム(学術用語・専門語)が沢山出てくる。だが入門書だけに難しくならない程度に平明な概念説明や例示で抑え、非常に良いバランスで摂生?が利いた本になっているように思う。
幾つか解説したいところだが、少し採り上げるだけでもかなりの紙面を費やしそうなのでやめておく。
人間の自我は、孤立した存在ではなく、常に他人とのかかわりを持つ社会性を有する。しかしこれまで自我は孤立したイメージで捉えられることが多く、自我は次第に自己中心的になり、他者の存在を無視したり、他者を自己の目的の手段として使用する利己主義になってしまった。
ここから人間の自我を、本来の他人とのかかわりを持つ社会的なものと考え直す必用があると著者は言う。そして1章から16章に渡り、自我の社会学の歴史的な発展も述べながら、自我というものを深く理解し現代における自我に悩む人々の解決案を提示してみせる。
ここ数十年の世界の流れと現状をあらためて思い起こしてみると、1990年前後を境に社会主義が崩壊し、資本主義世界の勝利が叫ばれ、世界標準とかグローバルの名のもとに、そういった風潮を後押し、新自由主義が横行していた。サブプライムローン問題やリーマン・ショックが起きるまで世界は、その時まで確かに上のような状況の(極み)であったと思う。
だが今世界は大きな時代の変換点に差し掛かってきており、市場での自由競争に勝つことを目的としたエゴイズム剥き出しの自我がぶつかる世の中ではアノミー状態は改善できるはずもないといえよう。
その結果だろうか最近、エジプト、リビアをはじめとした中東各国で暴動が起き混乱を極めている。日本の東北関東大震災も今後世界に与える影響は甚大であろうし、混迷をさらに深める要因となりそうな気がする。
こういう時代にあっては、確かな自我を確立する必要があるが、この本は非常に参考になると思う。最後の16章で出てくる「創発的に内省する自我」は、現時点での著者の最善案であろう。
私もQ&Aなどを参考に、この本をもう一度読み直してみたい。
またこの本には、私が以前読んだ本、例えば『人と人との間』(木村敏著)、『柔らかい個人主義の誕生』(山崎正和著)、『菊と刀』(R・ベネディクト著)、『孤独な群集』(D・リースマン著)、『しぐさの日本文化』(多田道太郎著)色々出てくる。これらも折りにふれてまた読み直してみたいと思う。
お薦めの一冊です。

副題が「『自我の社会学』入門と銘打った「自分とは何か」(船津衛:恒星社厚生閣)。本書は、放送大学教育振興会から出版された「自我の社会学」をベースに、修正、変更、再構 ......more

能登をこよなく愛する好奇心旺盛な40代後半のブルーカラーの源さんです。趣味の1つ読書(本の紹介・書評中心)のブログです。年間150冊前後読みます。2005年からこのブログを始め、既に1千冊以上を紹介しています。
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