最初から手抜きだが、まずAmazon.co.jpの本の紹介文を下に転記する。
「誰のために?何のために?慣れない重労働に、疫病で死ぬ者200名、巨大な権力に捨身の抗議をぶつけて屠腹する者50名。未曾有の難工事は薩摩藩士の死屍累々の上についに完成するのだが――。泥海の中に潰え去った男たちの無念に、平時のいくさの惨酷さを見事に描き切った著者の代表作。〈直木賞受賞〉」
(紹介文では上のようにあるが、本を読むと屠腹する者51名、疫病で死ぬ者202名となっている。ただこの死者数に関しては、歴史書に書いてある数字とは違うようだ。)
江戸時代に行われた普請助役(お手伝い普請)は、費用は大名が負担し、工事仕様・規模の決定、監督などは幕府が行なうという、現代的感覚からいえば非常に変わった公共工事であった。参覲交代などと同様、普請助役によって外様大名に幕府に抵抗する余裕を与えないという目的もあっての政策もあった。
ただでさえ財政難であった薩摩藩、工事前でも現代用語でいえば50万両という(当時の薩摩藩の歳入の2年半分)という巨額の負債を抱え、困窮のどん底にあった。
そこへたった一通の40文字程度にすぎぬ幕命の書類で、武士から農民 さらなる負担を課し、武士・農民を問わず塗炭の苦しみを味わうことになる。
治水を施される三川流域では、薩摩藩の艱難辛苦などお構いなしに、庄屋など村役、山元、川船業者などが、村役請負をいいことに、サボタージュ、賃金などの不当な値上げ、地元負担でやればいいような仕事まで当普請に押し付けるなど、エゴ剥き出しの行動に出る。また賄賂など受ける役人も、幕府の権力の笠を着て、村役や山元、などとグルになっての不正の数々。
薩摩藩の総奉行・平田靱負は、広大な地域にわたっておこなわれる工事のうち、せめて難工事が予想される32箇所を、町受請負(専門の土木業者請負)に換えてもらい、法外な費用がかかる村役請負を減らそうとし努力する。村方では、折角の儲けを減らすまいと猛反発、要求額でないと人手を出さなかったり、物資を供給しなかったりし、工事を滞る。
最終的に何とか難関な18箇所を町受請負にすることに成功するが、今度は利益優先の業者が費用を1文でも浮かそうと手抜き工事を行い、折角作った堤などが大雨の際決壊する始末。
薩摩藩士だけで千人近い武士の動員。そして40万両ともいえる巨額の費用。また屠腹する者51名、疫病で死ぬ者202名という戦時にも勝るとも劣らない犠牲を強いられ、成し遂げられた三川の大治水事業。
完成の暁には、この本の主人公格ともいえる総奉行・平田靱負も52人目の自害者として名を連ねることになる。
何とか難事業を遣り遂げて、薩摩や江戸などに帰る藩士らには、三川地域の人々とは違い、喜びの表情は薄く、何か虚脱感のようなやりきれない思いが鬱積したのみ。
なぜなら薩摩藩は、負債が90万両近くまでかさみ、困難はこれから始まるといってよい状態であったからだ。
薩摩藩は倒幕の機会を江戸時代の間ずっと窺っていた。外夷の脅威などでゆれる幕末に、千載一隅のチャンスとして捉え、藩主ではなく西郷や大久保といって下級藩士あがりの武士らの台頭とその指揮のもと、倒幕に進んで行ったことは現在では周知の事実だ。
このような宝暦大治水の顛末を書いた小説を読むと、それも宜(むべ)なるかなという感想だ。
読み返してみると、今回は今まで以上に上巻・下巻の紹介文・感想が重複する点が多くなってしまったような気がする。しかし直す気力も時間もない。
レビューというには、筆力が足り無すぎる代物だが、何しろ仕事の合間を利用しての短時間の殴り書きである。ご容赦願いたい。
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