図書館(七尾市立中央図書館(ミナクル3F))で、何か面白そうな本はないかと医学関係の棚をながめていた時に、風変わりなタイトルに惹かれ借りてきた本だ。
著者はジーノ・ストラダというイタリア人の戦場外科医である。戦場外科医といっても、戦争・紛争地帯で怪我を負った者をみる医者には違いないが、軍医ではなく民間の医者だ。略歴には、地雷や戦争による負傷者の治療とリハビリを行う非政府人道組織「エマージェンシー」(本部ミラノ)の創設者の一人とある。
この本は、そんな彼の回想記である。ただし記憶がよみがえるままに任せて書いたので年代順には並んでおらず、バラバラである。何年から何年までかははっきりしないが、1980年代から1990年代末くらいの回想のようだ。
本書で1999年にどういう賞か知らないがヴィアレッジョ・ヴェルシリア賞を受賞したとある。
ちょっと
この組織のHPを開いてみたらトップ頁に
Emergency is an independent, neutral and non-political Italian organization.
Emergency provides free, high quality medical and surgical treatment to the civilian victims of war, landmines and poverty.
Emergency promotes a culture of solidarity, peace and respect for human rights.
と書いてあった。簡単な英語だが一応訳してみると
「エマージェンシーは、独立した中立の非政府組織です。
エマージェンシーは、戦争、地雷、貧困の民間人の犠牲者に質の高い医療や外科的治療を提供しています。
エマージェンシーは、連帯と平和と人権の尊重を促進します。」
大体、どのような組織か分かっただろう。
彼が回想を語る紛争・戦争地帯も、アフガニスタン、ルワンダ、イラク、イラク領クルディスタン、エチオピア、ジブチ、カンボジア、ボスニア、ペルーなど多数の国にわたる。
現場にいた戦場外科医の回想記だけに生々しい描写が出てくる。例えば地雷やロケット弾などの被害で頭から脳の一部を出して運ばれてきた子供や、地雷で膝から下が吹き飛んで全身血まみれの上、傷口がカリフラワーのようになっている子供など、おそらく現実の写真を見せられたら直視することも出来ないような状況が書かれている。
著者は20世紀後半の紛争・戦争の犠牲者の90%以上は民間人であり、そのうち40%ほどが子供達であるという。
タイトルの「ちょうちょ地雷」とは、ロシア(旧ソ連)が開発した対人地雷、PFM-1型のこと。飛行機やヘリコプターで上空から撒く。羽根が2枚ついており真ん中に10cmほどの地雷の本体であるシリンダーがついている。全体は緑色。上空からばら撒かれると蝶々のようにヒラヒラと舞い降りてくる。アフガンの老人たちは、緑色のオウムと読んでいたそうだ。
子供達は、危険を何も知らないで、珍しがって手にとって触っているうちに爆発、手首から先が切断されたり、両目の視力を失ってしまうことも多い。勿論、亡くなることもあったろう。ロシアは、蝶々のオモチャのようなこの造りは純粋に技術的な理由によるものだというが、被害にあうほとんどが子供であるところから、著者は子供をターゲットにした非人道的な地雷だろうと想像する。
本のあとがきで「エマージェンシーの人道援助は、当初から対人地雷による犠牲者の手当てとリハビリテーションを主眼としてきました。かつて、イタリアがこの爆破装置の主要製造国であったからです。」
現在ではイタリア政府は、1997年10月22日、対人地雷の製造と販売を禁止する法を承認しているが、67ヶ国に撒き散らされた地雷は約1億1千万個、日本の人口と匹敵する数であり、現在も多くの人々を傷つけているという。この本でもイタリアの強力な地雷でやられた人の話が幾つも出てくる。イタリア政府が、そのような法案を承認したのも、著者らの政府批判や活動が後押ししたようだ。
この本の中には、その他にも国連(たとえば国連難民高等弁務官)や赤十字などが、人によっては現地の切羽詰まった厳しい状況にも無関心で、尊大倣岸な態度をふるう者もいる様子が描かれている。ただでさえこういうリポートのようなものは私達は接することが少ない。こういう非政府人道組織の視点からの批判はなかなか耳にすることがない(日本では、ペシャワール会の中村さんなどくらいであろうか)。それだけに非常に価値ある批判だと思う。
とにかく現代の戦争の悲惨さをまざまざと教えてくれる。この本にも触れられているが、映画『キリングフィールド』のような世界を描いた作品だ。あの映画もこれもノンフィクションである。国際問題に無関心な者が多い平和ボケの日本人は、心掛けてこういう本を読む必要があるのではなかろうか。
お薦めの一冊です。
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