人気シリーズの第7弾である。勿論、既刊は全て読んでいる。このブログでも
第5弾『花輪茂十郎の特技』、
第6弾『六地蔵川原の決闘』を以前紹介している。
私は今回この本を読み、今まで八州廻りについて少々誤解していたのに気づいた。
それで八州廻りの役柄などについて、今回少し詳しく述べる。
八州廻りは通称で、正しくは関東取締出役。関八州は御料(幕府地)、大名領、旗本領、寺社領と支配が錯綜しており、警察犬がばらばらでそれをいいことに悪党者がのさばって手が付けられなくなり、関八州の代官4人が提案して、文化2年(1805)に八州廻りという役職が設けられた。いわば関八州の特別巡回警備職だ。
創設年を見てお分かりのように幕末とまではいかないが江戸後期という結構遅くに出来た役職である。当初は八州廻りは8人だったが、後に(桑山十兵衛の頃は)10人となった。
江戸府内では八州廻りは、下っ端役人に過ぎないが、一旦江戸を出て廻村先に向かえば、鳴く子も黙るほど恐れられた威厳を示した。八州廻りの廻村には道案内という江戸でいえば岡っ引のような男たちが2,3人の手下を従えて同行した。だけでなく、先々の道案内に、何日の何時頃そちらに着く予定と知らせられ、知らせを受けた道案内は師弟の日時に手下を伴って待ち受け、そこで道案内役を交代した。概ね八州廻りに関するこの位の事は私も理解していた。
だが私はその支配関係を少し記憶違いしていたらしい。彼らを勘定奉行の支配下、直接の上役は公事方勘定奉行所の勘定組頭で、その上が公事方勘定奉行と誤解していた。
今回読むと、組織上の実際の位置は代官の部下、もしくは家来であるという。よってこの本にも出てくるのだが、代官である上司も実際にいることになる。代官の下僚としての立場から言えば、手付・手付と同じことになる。(桑山十兵衛も御家人で手付の立場である)
といっても八州廻りは、仕事柄、組織上の上司である代官と会うことはほとんどないという。よって代官の部下というのは、便宜上の組織的位置づけといえよう。
代官の主な任務は年貢の徴収であるから、普通その下の手付・手付は検見(けみ)の掛り、回米の係りなど手分けして年貢の徴収に励むのだが、八州廻りはのさばっている悪党を捕まえるのが任務とされているから、一般の手付・手代とはまるで内容を異にした。また命令も代官からおりてくることは滅多になく、八州廻りを束ねる御留役の一人が評定所にいて、命令はおおむねそこから下りてくるという。
まあ八州廻りの説明はこれ位にしておく。
今回、主人公の桑山十兵衛は、その一応上司にあたる代官・川崎平右衛門からある厄介な用を頼まれる。平右衛門は、真岡の代官もしているが、真岡の陣屋に常駐させて万端取りしきらせている小川万蔵の所業が怪しいという。ここ何年も年貢の額が落ちており、彼が賄賂をとって手心を加えているか、または彼が公金を着服しているとしか思えないという。平右衛門は、元締を真岡に派遣して質したが、何の不正も行っていないといわれたという。そして万蔵はこうも述べたという。
「これまで川崎様には随分んと尽くしてきました。なのにおかしい疑いをかけらたのでは、これ以上仕事を続けることはできません。辞めます。ですが私はこれまで三十七年の間、川崎様には随分と尽くし、勘定が立たない千六百両もの大金を穴埋めしております。帳面もしっかりつけております。それを即座にそっくりお返しして頂いてけりをつけましょう。そう川崎様にお伝えください」
平右衛門は、勘定が立たなかった年もあるが、公金を浮き借りして何とか遣り繰りしてきたから、小川万蔵の世話になったことなど爪の垢ほどもないという。自分から出向くのは外見もあるので憚りがあり、是非とも十兵衛に真岡に出向いて小川万蔵を質して欲しいというのだ。
十兵衛は、実際真岡に出向いて小川万蔵を直接質す。でも拉致があかず、他人事で嫌になるが、このシリーズ第7弾の本の中では、この揉め事に関する話が全収録作品を通して出てきて、十兵衛は小川万蔵のところへ一度ならず何度か出向くことになる。
今回の収録作品は、もう自分に課している制限字数が残り少ないので特に説明はしないが、タイトルだけ記しておこう。
第1話「野州真岡の六斎市」
第2話「蓑笠軍兵衛戸田の私の不名誉譚」
第3話「死罪覚悟の入墨者の自訴」
第4話「大盗っ人藤八と三人の爆睡」
第5話「たどりそこねた芭蕉の足跡」
第6話「この金よく一家を支持するに足るか」
第7話「三度の食事と多生の縁」
第8話「手代小川万蔵の復讐」
表題作でもある第8話では、十兵衛はとある強盗を追ってという名目で、関東の境を越えて東北へ行く。芭蕉の足跡をたどって出羽尾花沢まで出向き、さらにその近く寒河江に住む小川万蔵のかつての同僚から彼の人となりなど聞こうとの魂胆だ。ところが本当にその盗賊が、十兵衛が自分らを追っているものと誤解し、同じ道を辿って逃げていく。・・・・
今回も、面白い作品が満載のお薦めの一冊となっております。
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